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騎獣

 日が替わって、ハルカ達は街から歩いて数時間ほどの広い草原へと来ていた。遠くに簡素な柵や家畜舎のようなものが見える。その付近には馬や牛等、見た事のある家畜がのんびりと草を食べていた。

 そう、ハルカ達は騎獣に乗る練習のため、街から最も近い牧場へ向かっていた。朝一番に街の騎獣をレンタルしてくれる店に行って乗れるか試してみたが、結果的にはハルカの惨敗だった。走らせる以前に乗る事すらできない。呆れた店員がこの牧場を紹介してくれたのだ。

 家畜舎を目指して道を辿っていくと、幾つか固まって林立する木々の隙間に管理小屋のように見える小さな建物が現れた。素朴な木製の看板が扉の上に掲げてある。扉を開け中に入ると、そこには20代くらいの青年が一人、休憩中だったのだろう、座ってお茶を飲んでいた。

「お客さんなんてめずらしいですね。どのようなご用件です?」

 その青年は立ち上がると丁寧に声をかけてきた。


「はあ、シュトラスの騎乗練習ですか…そちらのヴェチカさんではなく、ハルカさんが、ですか?」

 ハルカくらいの歳の女性が騎乗練習に来るのはよほど珍しいのだろう、青年はとまどいながら再度確認する。

「そうです。ちょっと急ぎで乗りこなす必要に駆られまして…出来れば一日で乗れるようになれると有難いんですけど」

「え~と、先ほどの話ですと、まったく乗れないんですよね?」

「ええ。跨る事すらできませんでした」

「…」

「…」

 お互いに無言のまま時間が流れる。

「私、運動神経には自信があります!」

 沈黙に耐え切れずに、ハルカが宣言した。

「え~、その、…私も頑張ってみましょう」

 ハルカの言葉に気圧されるように青年は答えた。


「こちらがシュトラスの畜舎です」

 青年(名前はコルタスと聞いた)が家畜舎まで案内してくれた。中は閑散としている。殆どのシュトラスは外で自由にしているようだ。残っているのは老齢だったり気まぐれなおとなしい個体だけとの事だった。

 騎獣としてよく使われるシュトラスは大きなくちばしを持ち、長い二本の脚で地を駆ける、鳥に似た生き物だ。羽は持っているがそのサイズは体の割りに小さく、飛べない。空を飛ぶ鳥に比べると頭が大きく、そのためか中々に賢い。走るための脚は逞しく、強固な鱗に覆われていた。なんでも非常に臆病らしく、逃げるために地上最速のスピードを身に付けたと言われているらしい。魔獣のテリトリーには怖がって絶対に近づかない習性を利用して、ギルドの騎士・ガーディアン達が境界線の確認、警戒をするのに主に使っていた。

「まあ、最初は彼らから始めるのがいいでしょう」

 そう言ってコルタスが中から大人しそうな一匹を連れてきた。だが、ある程度まで近づくとピタリと止まって動かない。

「ああ、どうやらその子が苦手のようですね」

 そう言ってコルタスが指差したのはニアだった。

「え~、こんなに小さくて可愛いくて良い子なのに?」

「ガウ?」

 ニアが不思議そうに首を傾げた。

「その使い魔さんはかなり強いんでしょう?シュトラスは魔獣以外でも、そういう事にすごく敏感なんですよ」

「う~ん、仕方ないからヴェチカ達は離れててくれる?練習はコルタスさんが見てくれるから」

「しょうがないか…じゃあしばらく森で植物の勉強をしてくる。おいで、ニア」

 少し残念そうに言うとヴェチカとニアは向こうに見える森へ駆けて行った。

「では、お願いします!」

 ヴェチカ達を見送ったハルカは、コルタスの方に振り返ると気合を入れて頭を下げた。



「は~~~…疲れた」

 牧場から街へ戻る荷馬車に同乗させてもらったハルカ達は、荷物と一緒に揺られながら麦畑の間の道をのんびり進んでいた。

一日目を終えたハルカは精神的な疲れでぐったりしている。まあ、それはコルタスも同様のようだったが、彼女にそこまで気を配る余裕は無かった。

「でも最後の方はだいぶ乗れるようになってたよ」

 ひとしきり森で勉強兼遊びを堪能した後、離れた場所から見学していたヴェチカが気休めにしかならない言葉をハルカにかける。

「全然ゆう事聞いてくれないけどね~」

 乗ること自体は、割と早く出来るようになったが、その後が問題だった。なかなか自在に走らせる事が出来ない。言う事を聞かせようとすると、とたんに止まったり、ハルカを振り落とそうとしたりする。コルタスによると、強いハンター特有の威圧感が洩れ出ているのでは?との事だった。

『優しくお願いすればいいんですよ』と、コルタスは言うが、さっぱり要領が掴めない。明日以降も練習する約束をしたが、果たして自在に操れるようになるのか?先行き不安な初日だった。

「はぁ…あれだけ便利な魔導具が発達してるんだから、走ったり空飛んだりするのが造られてても良さそうなものだけど。そっちのが使えそうだよ」

 あまりの乗れなさに愚痴ってしまう。魔導具で自動車のような物があれば、そちらのほうが簡単に乗れそうだった。

「…はぁ」

 聞いたヴェチカが呆れたようにため息をつく。

「あのね、お姉ちゃん、そんな魔導具を作ったら、あっという間にドラゴンに襲撃されて街はめちゃくちゃになっちゃうよ」

「え?それって常識なの?」

 思わぬヴェチカの説明にハルカは驚いた。

「常識だよ。だいぶ昔、ドラゴンが現れなくなった時を狙って空飛ぶ船を造った街があったけど、しばらくしたら違う場所のドラゴンがやって来て辺り一面を焼野原に変えちゃったんだから。…この話は子供でも知ってるよ」

 当の子供のヴェチカが言うのだから説得力があった。

「だから馬車とか騎獣とか使ってるのか…あ!」

 そういえば脱出艇を何かに落とされたことを、いまさらながらハルカは思い出した。

(あれはもしかしたらドラゴンの仕業だったのかしら?だとしたら二重の意味でも一度ぶん殴ってやりたいところね。出来るなら…だけど)

 予想される明日の厳しい練習から逃避するように、馬車に揺られながらハルカは思考を違う事に巡らせた。

シュトラスはダチョウを可愛くした、みたいな生き物です。チョ○○じゃないよ(苦笑)

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