歓迎会
ギルドから出たハルカは歩きながらクリスタルタグを眺めていた。改めて見ても小さいと感じる。長さは5cmくらい、基部に加工がされていてリングと鎖が付いていた。日本の雑貨屋などで見た水晶のペンダントによく似ている。
「なんか、ヴェチカのとちょっと違うね」
彼女の物は装飾が施された台座に水晶が嵌まっていた。形と色も少し違う。
「私の時は何個かの水晶から好きなのが選べたんだけどな~」
「そうなの?」
「うん。でも台座は普通にお店で売ってるから、好きなのにできるよ」
ハルカの水晶は薄いピンクがかった色で、偶然だろうが彼女の好みだった。だから選べなかった事は気にならない。
「そうだ!お金も貰えたし、今から色々買いに行こうよ」
昨日はお店に行っても買えないので、あまり積極的に見て回らなかったが、今日は違う。初めてバイトの給料を貰った日のようなテンションでハルカは言った。
「そうだね。お姉ちゃんに合うサイズの服もうちにはあんまり無いし」
ヴェチカも賛成する。
「ところで…、幾らぐらい貰ったのかな?これ、どうやったら解るの?」
ハルカはクリスタルタグをくるくる回しながら尋ねた。
二人して大騒ぎで買い物をし、ようやく家へ帰り着いたのは、もうずいぶんと日が傾いた後だった。
洋服店でクリスタルタグで支払いをしようとして店員に変な顔をされたり(極一部の高額商品を扱う店等でしか機械を置いていない)大急ぎで使う硬貨を引き出しにギルドまで戻ったり、買った品物をアイテムボックスに入れようとして、またさらに変な顔をされたり(日用品や日々の食料品を自分の家に持ち帰るのに普通は使ったりしない)などなど、変わったトラブルにヴェチカはずいぶんと笑い転げていた。
「火の魔導具をあんな風にしちゃう人なんて初めて見たって、店員さんが笑ってたよ」
「え?そうなの。でもね、よく覚えてないからしょうがないんだよ。…もしかして馬鹿だって思われたかな?」
「そこまではないと思うけど…」
笑いながら玄関のドアを開けて中に入ると、何やら裏庭の方から騒がしい声が聞こえてくる。ニアがたたっと素早く走って、声のする方へと向かった。
少し遅れてハルカとヴェチカが裏庭に出ると、隣の家の庭ではバーベキューパーティーらしきものが行われていた。ハルカの見知った顔もいる。
「ずいぶん遅かったね。ヴェチカちゃん」
ハルカも先日紹介された隣の家のおばさんが、いち早く駆け付けたニアに骨付き肉を与えながら垣根越しに声をかけてきた。
「無事済んだようだな」
続けてアルゴが酒の入ったジョッキを掲げながら、一応といった感じでハルカに確認する。
「今日はどうしたの?何の日?」
不思議そうにヴェチカが尋ねた。
「ハルカの歓迎会さ。まあ、主役が登場する前に始めちまったがな」
アルゴがここ最近よく見る、人の悪そうな笑みを浮かべた。
「シルバーロアへの所属、おおいに歓迎するぜ!」
「クロトの街へようこそ」
「腕のいいハンターは大歓迎さ」
「……うむ」
「いい街だろ、ここは」
「後で剣舞を見せてくれよ」
「ブラッドレオを倒すなんて!尊敬します!!」
「隣ですから、困ったことが有れば遠慮なくどうぞ」
この場にいるそれぞれが思い思いの歓迎の言葉を口にする。
「あの…こんなに歓迎してもらえるなんて、その…どうも有難う」
少々面食らったハルカだったが、それでもなんとか感謝の言葉を口にした。
「そんな所に突っ立ってないで、こっち来て食べな。ヴェチカちゃんも、ほら」
おばさんの誘いに二人は庭の境にある簡素な垣根を乗り越えると、幾人かに誘導されみんなの輪の中に入っていった。
「ねえアルゴ。私、またタルタに採取に行きたいんだけど、ちょうどいい依頼無いかな?」
和気藹々と歓迎の宴が進む中、果実を絞って作られたジュースを飲んでいたヴェチカが思い出したようにアルゴに尋ねた。
本来はヴェチカ位の年の子が野営込みで採取の依頼を受ける事など出来ない。そもそも福祉も充実しているこの街では、親がいなくとも成人までは不自由なく生活する事ができた。アルゴ達もヴェチカには普通に子供らしく生活して欲しいと願っていたが、両親の事もあり、つい我儘を聞いてしまっていた。
「今はちょっと無理だな。ギルドの出す依頼の危険度も引き上げられてる。他の薬師見習いみたいに日帰りできる近場にしとけ」
「え~!街の近くは物足りないよ…お姉ちゃんと一緒でもダメ?」
小さな頃から父親の教えを受けていたヴェチカは、近くの採取場はほぼ制覇していた。せめてもう少し勉強になる場所に行きたいと、アルゴに食い下がる。
「あのな、ダメに決まってるだろ。野営するならせめて5人はいる。今はそれだけのメンツを揃えられねぇ。あきらめな」
「…うん。わかった…」
しゅんとしてヴェチカは顔を伏せる。さっきまで元気だった様子が見る影もない。
「あ~もう、そんな顔するな!」
アルゴはこの顔に非常に弱かった。仕方なしに代わりの案を考える。
「そうだな…タルタなら騎獣を使えばなんとか日帰り出来るだろ。それならハルカとうちの若いやつで護衛はどうにかなる。採算的には怪しいが、それで我慢しとけ」
「うん!ありがとう。アルゴ」
ヴェチカが可愛い花のような笑みを見せる。誰もがつられて微笑んでしまうような、そんな笑顔だった。
「ったく、アルゴは甘いよな」
「こうなるとは思ってましたけどね」
「孫を可愛がるジジイか!」
「まあ仕方ない」
「このロリコンめ」
みんな口々にアルゴを揶揄う。
「お前ら、うるせぇよ!それから、ラッセ。てめぇは後で絞める!」
アルゴは酒も入り、さらに遠慮が無くなったいつものメンツに、これまたいつものように怒鳴った。見慣れた風景にヴェチカも笑みを深くする。
「あの、ちょっと話があるんだけど…」
そんな中、おずおずと言いにくそうにハルカが声を上げた。みんながハルカに注目する。
「私って、その…騎獣に乗れるのかしら?」
本人的には絶対に乗れない自信があったが、記憶があやふやだという話をしている関係で、そう断言する訳にはいかなかった。
「乗った記憶は無くとも、体が覚えてるんじゃないか?」
「街の人間も大概みんな乗れますしね」
リューグが乗れるのは当たり前といった感じで答え、間髪入れずにエナルセルもその意見に同意した。
「乗れなかったら私が教えてあげるよ!」
すごい勢いでヴェチカが頬を紅潮させて言う。自分がハルカの役に立てる事が嬉しいのだろう。
「明日にでも試して見りゃいいだろ。どうせタルタに行くにしてもすぐには調整がつかねえ」
アルゴがたいした問題じゃない、とでも言いたげに提案した。
「そうね。乗れるかもしれないよね。…自信ないけど…」
思わず小声になって呟く。ハルカはせめて3日は練習させてほしいと思ったが、とてもそれを言い出せる雰囲気ではなかった。
「ガウ!」
そんな事は関係なしに、ヴェチカの隣ではニアがお代わりの肉を要求していた。




