第28章
「おい、エリュニス。起きろ」
「……うーん、ルシェットさん……。僕は……」
「いい度胸だな、その浮かれた寝言を二度と叩けないようにしてやろうか?」
「どうしたの?セヴェル」
「……ああ、ルシェットか。これからエリュニスを叩きのめしてやるところだ」
「……え?」
「さっさと起きろ、エリュニス!」
セヴェルがエリュニスに強烈な蹴りを与えるとエリュニスの体がベッドから落下した。
「……ぐえっ! い、痛いですよ……」
「目が覚めたか?」
「僕がセヴェル君に何をしたっていうんですか……」
「お前が浮ついた言葉を口にしたから、仕置きをしたまでだ」
「……そうでしたか、すみません」
「次やったら腕を撥ねてやろうか? 不死のペンダントで体がすぐ直るだろうが
痛みは残るはずだ」
「……腕! ……それでも、いえ答えは保留にさせてください」
「2人とも喧嘩は駄目」
「ルシェット、お前はどっちの味方なんだ? お前の兄か、適合者の監視役か」
「どうして名前で呼ばないの?」
「名前で呼ぶと情が移るからな……で、どっちだ?」
「分からない……でも、蹴るのは駄目」
「……はっ……ははは……とっくに答えは出ているじゃねぇか」
「……? とりあえず2人ともご飯を食べよう」
朝ご飯を食べた3人は今日も依頼を受けようとしていた。
「そういや、今日は魔法禁止のルールだったはず。ルシェット、飛ぶのもなしだ
からな」
「そういえば、そうでしたね。……僕はともかくルシェットさんには厳しいですね」
「うん、だからこれを武器にする」
ルシェットが両手に持っているのはいつも、魔法を使う時に使っているスタッフだ。
「おいおい、それで叩くのか? それじゃ、スライムがやっと倒せるかもしれない
くらいだな。まぁいい、依頼を受けよう」
「今日の依頼は、町の外の遠くの崖の上の小屋に住んでいる奴に荷物を持っていく
ことだ」
「えらく楽な依頼が来たな」
「崖には魔物が住み着いているが、お前たちなら大丈夫だろう。そいつらは特に魔
法に弱いからな」
「……魔法」
「どうしたんだ?」
「……いえ、なんでもないです」
「じゃ、出発するか」
「ふぅ、結構歩きましたね。小屋はまだなんですか?」
「まだまだだな。それより見ろよルシェットを。相当苦しそうだぜ」
「はぁ、はぁ。……こんな崖空を飛べばあっという間なのに」
「何か見えませんか? 魔物がいます」
「あれは……ハーピーか。くそ、こんな時に」
「うーん、美味しそうな人間の雄が2匹も……雌も1匹いるけど肉があまりついて
なくてまずそう。……雄はお楽しみに取っておいて雌から食べようっと」
「あぁ、ハーピーがこっちに来る……きゃああああ」
「ルシェット!」
「ルシェットさん!」
「……降ろして、このっ……!」
ルシェットがスタッフを滅茶苦茶に振り回し必死に抵抗した。
「いたっ! 痛い痛い! こんな雌落としちゃえ!」
ハーピーがルシェットを落とす。
「きゃああああ!」
どすっと鈍い音を立てて落下した。
「……よっと」
「あ、あれ……?痛くない……セヴェルなの?」
ルシェットの下にセヴェルがいて、受け止めていた。
「エリュニスじゃなくて悪かったな」
「あ、ううん。いいの。今降りるね」
「今だ! いただき!」
「うわっ! ……俺、空に浮いてる?」
「ハーピーに捕まったんですよ。セヴェル君」
「……そうか、俺捕まって……って悠長なこと言ってる場合じゃないな。てやっ!」
セヴェルがダガーをハーピーに向けて投げるとハーピーの右の羽の付け根に命中した。
「ギョエエエエエ! イタイイイイイイイ!」
バランスを失ったハーピーはセヴェルを落とし、次にふらふらと蛇行しながら地面
に落ちていった。
落とされたセヴェルはまるで猫のようにクルクルと回転し、地面に降りた。
「もう、人を食べようとは思わないことだな」
セヴェルが地面に落ちたハーピーを見下ろしている。羽からダガーを引き抜いた。
「セヴェル君が情けをかけるなんて珍しいですね」
「イタイ、いたい、痛い……もうしないから許して……」
「よし、分かったならさっさと立ち去れ」
「魔法を使わなくても何とかなりましたね」
「エリュニス、お前は何もしてないけどな」
「そう言われると、情けないです」
「とにかく崖を登りきって小屋を目指そう」
「こんにちは。届け物を渡しに来ました」
「いらっしゃい、どうぞ中へ」
「失礼します。……わぁ」
小屋の中はありとあらゆる魔法道具で溢れかえっていた。壁には魔法の杖まで
掛けられている。
「まあ、座ってくれ。飲み物はジュースでいいかい?」
「はい、お構いなく」
「これ、全部集めたんですか?」
「そうだぞ。はい、ジュース」
ジュースは濃い紫色をしており、小さな気泡が泡だっていた。
「……この気泡、どこかで見たような気がする……。」
「それにこの紫色は……もしかしてメルカのジュースですか?」
「正解だよ。メルカの実を絞って作ったんだ」
「ご主人は魔法が使えるんですか?」
「……いや、残念ながら使えないんだ。でも魔法使いになる夢をどうしても
諦めきれなくてね。……それで、魔法道具や杖、魔導書などを集めているんだ」
「というと、この届け物は……魔法道具とか?」
「いや、生活必需品といったところかな。魔法道具もたまに注文するんだが、
高くてね」
「なぜ僕らに配達を頼んだんですか?」
「……なぜって、決まっているだろう? 外のハーピーを見たかい? 奴らが
物資や人間を狙って悪さするんだ。私が魔法を使えないのが残念だ」
「……でも、これだけ魔法道具がそろっているならどうにかなったんじゃない
ですか?」
「君たちは分かってないなぁ。このコレクションを汚したりしたくないから
に決まっているじゃないか」
「……はぁ? ……そ、そうですか」
エリュニスが珍しく呆れている。こんな彼を見るのは新鮮だ。
「いいからさっさと報酬よこせ。コレクションなんか俺はこれっぽっちも
興味はないんだ」
「セヴェル君、相手の方に失礼ですよ」
「へいへい。分かりましたよっと」
「……迷惑を掛けました。 すみません」
「ルシェットさんは素直ですね。 いい子です」
「じゃあ帰るか」
「そうですね。失礼します」
報酬をもらった3人は帰路についていった。




