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第29章

「……なあ、エリュニス」

「なんですか、セヴェル君」

「依頼の終了の時、ルシェットのこと「いい子」って言ってたよな。

あれは俺に対しての皮肉か?」

「……いえ、そんなことは……」

「その間はなんだ? はぐらかしてないで素直に言えよ」

「……僕は、……僕は……言えないんです」

「はぁ? なんだよそれ、……この偽善者め」

「そんな……ひどいですよ」

「セヴェル、エリュニスをいじめないで」

「ルシェット、お前までエリュニスの味方する気か」

「……違う、違うの……そうじゃなくてこんなの嫌だよ……。味方

同士で争って傷つけあって……こんなのなんか違くない?」

「甘いな、ルシェット。エリュニスは本性を隠しているに違いないぜ」

「……そうなの? エリュニス、それ本当なの?」

「……それは……」

「黙るってことは何か隠してるってことだ。……そうだな、お前はずっ

と優しいふりをして俺たちが適合者だから変な目で見てたんじゃないか?」

「ひどいよ、エリュニス。……こんなのってないよ」

「……ルシェットさん……」

「うっ、うわああああん! ……うっ、うえっ」

エリュニスはルシェットの涙を止めることもできず、ぼうぜんと立ち尽

くしてしまった。

「ルシェット、俺のところに来いよ。エリュニスのように抱きしめては

やれないが、お前が泣き止むまで隣にいてやるよ」

「……うん、セヴェル……」

「じゃあな、エリュニス」

セヴェルがルシェットを連れて外に出ていく。1人取り残されたエリュ

ニスは、ひどく落ち込んでいた。

「……適合者の補佐役失格ですね……。」

大きくため息をついた後独り言を言った。

「……ああ、僕は駄目ですね……いつもこうなってしまいます。」


「……失敗した!?」

「……はい……」

「人のいいお前が失敗したなんて珍しいな」

「偽善者だって言われてしまいました」

「……まぁ、そのことも仕方ないかもな。そんな人間もいるさ」

「……僕は偽善者ですか?」

「優しすぎるんだよ、お前は。もっとしっかり自分を持て」

「はい……」

「分かったら早く適合者のところに行ってやれ」


「さあ、飲もうぜ」

「……これ、お酒?」

外に出た2人は昼間から酒場にいた。緑色をした酒はソーダのようにも

見える。

恐る恐る口をつける。アルコールよりも甘さが先にきて飲みやすい。セ

ヴェルはぐいぐい飲んでいた。

「……美味しい」

「だろ? もっと飲め」

「うん……」


その頃エリュニスは、ルシェット達を探して歩きまわっていた。

喫茶店や酒場を見て回る。一件の喫茶店を見てここも駄目かと思ってい

た頃後ろから声をかけられた。

「あれ? エリュニスじゃない? きゃー! こんなところで出会える

なんて……」

「えっと、アイシャさん?」

「ねぇねぇ、もう一人の暗い子はどうしたの?」

「……それが……」

「……うふっ。今がチャンスだわ」

「アイシャさん? どうかしましたか?」

「……ねぇエリュニス。今からデートしない?」

「ですが……」

「歩き回って疲れてるんでしょ? ここで休憩してリラックスしないと。

お茶するだけでいいから」

「……分かりました。お茶だけですよ」

「きゃー! やったあ!」

適当な喫茶店に入り、メニューをざっと見る。すぐに店員を呼び、注文を

した。

「すみません、コーヒーを一つ」

「私も同じものを」

ほどなくしてコーヒーが運ばれてきた。砂糖を1つ入れて飲む。コーヒ

ーの苦みの奥にほのかな砂糖の甘さが感じられた。

(……ルシェットさん、どこにいるんでしょうか)

「……エリュニス。余所見はやめてこっちを見て。せっかくデートしてる

んだから」

「……えっ? ……は、はい。そうですね」

「ねぇ、あんな暗い子のどこがいいわけ? 大丈夫。あの子が居なくなっ

てもエリュニスには私がついてるから」

「……そんな言い方はやめてください……」

「え?」

「……僕は怒っています。ルシェットさんはあなたよりもずっといい子で

す」

「……な、なによそれ!? まるで私があの子より劣っているといいたい

わけ!?」

「……僕は事実を言ったまでです」

「……分かったわよ。エリュニスなんかもう知らない!」

(言い過ぎたんでしょうか。……でも、こうしなきゃいけないんですよね

……?)

アイシャが店を出ていく。それをぼんやりと席に座ったままエリュニスは

しばらく動けずにいた。

コーヒーを飲み終わり、座った状態からゆっくりと立ち上がる。会計を済

ませたエリュニスは店を出て歩き始めた。


「……はぁ……見つかりませんね」

「おい、お前がエリュニスだな? 適合者の少女を探しているっていう」

「え、……あなたは?」

「俺のことはどうだっていいだろ。……そうだな、金をくれたら教えてや

ってもいいぜ」

「ルシェットさんの事を見たんですか?」

「おう。確かにこの目で見たぜ。セヴェルと一緒だった」

「……分かりました。払います、ありがとうございました」

「へへ、毎度。セヴェル達は銀色の砂時計亭にいるぜ。それじゃな」


「……ええと銀色の砂時計亭、……あ、ありました」

中に入るとルシェットはすっかり泥酔していた。

「うへぇぇ~~。だれらぁ?」

「ほら、きたぞ。偽善者のエリュニスだ」

「う、うわぁぁん。なんの用らのぉ?」

「ルシェットさん、あなたを保護しに来ました」

「保護? そんなの必要ないだろ」

「いいえ、ルシェットさんは適合者。僕は適合者を保護することが役目

です。……それに」

「……それに?」

「一度、宿屋に戻りましょう。……ルシェットさんの酔いが冷めたらお

話しします」


「……うぃー、ひっくしゅ……天井が回ってみえりゅ~」

「ルシェットさん、どうぞ。水です」

「ありあとー。……ぐびぐびんっく、ぷはーっ。……ひっく」

エリュニスから水をもらうとルシェットは一気に飲み干したが、酔いが

覚めるわけでもなく爆睡してしまった。


「……うーんっ、よく寝たぁ。あれ、エリュニスはもう起きてるの?」

「こいつ、一睡もしてないんだぜ。よくやるよなぁ」

「そういうセヴェル君だってずっと起きてたんじゃないですか」

「……俺はただルシェットの様子を見ていただけだぜ。……でだ、エリ

ュニス、話があるんだろ」

「はい。……ええと……」

「何か隠してることがあるんじゃないのか? そうだ、思い出した。ル

シェットのことをいい子だって言った事。それが俺に対しての皮肉だっ

てこと」

「……僕はいつも、言いたいことを我慢して生きていました。誰にでも

優しく接しているつもりです。それでもルシェットさんは何の疑いもな

く僕を慕ってくれる……、それが嬉しかったです。」

「どういうことだ?」

「……失礼ですが僕の事を裏があると疑っている人や2面性を持つ人物

だと言う人たちも少なからずいたんです。」

「じゃ、なんであの時素直に言わなかったんだ?」

「言ったら傷つけてしまう。……そう思って言わなかったんです」

「……! お前ってやつは……」

「……そうなの? エリュニス」

「……はい。 今まで黙っていてすみませんでした」

「エリュニス。……エリュニス、好き」

最後のほうは小さな声だったがエリュニスの耳には届いたようだ。その

言葉にエリュニスは頬を赤く染めた。

「……! ルシェットさん……。あなたは懸命に、僕の事を慕ってくれる」

「……疑って悪かったな」

「セヴェル君。こちらこそ混乱させてすみませんでした」

「……わだかまりも解けたことだし飯食って、それから依頼に行こうぜ」

「……はい!」


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