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テンプーレ  作者: ポメヨーク


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公爵令嬢は、おしとやかではいられない3

「──というわけなのです。どうですか? 聞くも涙、語るも涙。涙なくしては語れない、レティお嬢様のつらい過去。さすがのサティアさんでも、ご理解いただけたと思います」


 殴られた頬のほうが、痛くてつらい。


「あいつ、ちびらせてやったわ」


 嬉しそうな笑顔で、親指を立てるレティを見て、反省のはの字も無いんだろうなと、理解はできた。


「公衆の面前で失禁させられたんなら、そりゃあ引きこもるさ」


「はっはっは。笑いあり、涙あり、暴力ありの、まさに三拍子そろった、レティ様の武勇伝。私はお嬢様の執事になれたこと、心の底から嬉しく思っております」


「勝手に武勇伝にしないでちょうだい」


 笑いと暴力も否定しといたほうがいいと思うぞ。無理だとは思うが。


「さあ、行くわよ。夕方までに片付けたい用事があるんだから、ぐずぐずしていられないわ」


 レティは外に出るように要求してくる。


「えっ。やだ」


「なんでよ。従者だったら、主人に付いてくるのが務めじゃない」


「従者になるなんて、言った覚えはない」


 俺の返答に、レティは大きくため息をついた。


「あんたの大親友って、話しどおりのわがままね」


 だれが大親友だ! こいつと親友になったつもりはないぞ。


「申し訳ございません、お嬢様。サティアさんは見てのとおり、吊り目がちなお方。何かしらのエサを用意しないと、付いてこないのです」


「なるほどね。これは手が焼けるわ。アリベルト、なにか案はないの?」


 なにやら2人で相談し始めた。どうやら諦めることも、帰る気もないようだ。


「どうすればいい? こんな時は助けてくれるって、約束だっただろ」


 俺は呑気に茶をすすっている、ピアへと助言を求めた。


「諦め悪いですね。こんなの無理に決まってるじゃないですか。どうせ暇なんだから、おとなしく従者ごっこでもしてて下さいよ」


 ぜんぜん頼りにならねえな。


 話がまとまったのか、レティがこちらを向いた。

 そして片足を椅子の上においた。行儀が悪い。


「いいよく聞きなさい。あなたが従者になれば、私は嬉しい。公爵令嬢にここまで言わせたんだから、もう断れないでしょう」


「素晴らしい素晴らしいですぞ、レティ様。サティアさんも口をあんぐりとあけて、反論の余地すらないご様子。これは我々の完全勝利でございます」


 アリベルトは感涙の涙を流して、拍手を送っている。


「2人で相談してまで出した答えが、それかよ。だいたい従者つっても契約なんだからよ、俺がうんと言わなきゃ、成り立たないだろうが」


 俺が突っぱねると、レティはうつむいた。


「なによ。ちょっとぐらい手助けしてくれたって、いいじゃない」


 椅子の上から足を下ろすと、レティはまた椅子に座りなおした。彼女の横顔からは、どことなく悲壮感のようなものが感じられた。


「……手助けねえ。まあ言ってみろよ」


「アリベルト。これは釣れたってことで、いいのかしら?」


 にぱっと、レティは笑顔になる。


「はい、そのようですな。しかしご令嬢の涙につけ込んで、己の欲望を満たそうとするなんて、サティアさん。私は見損ないましたよ」


 お前は相変わらず、なにが言いたいのか、さっぱり分かんねぇ奴だな。そもそも泣いてもねーし。


「ともかくこれで決まりね。さあ、行くわよ」


 レティは立ち上がらせようと、俺の腕を引っ張った。と、そこでアリベルトが割って入る。


「お待ちください、レティ様。」


「なによ?」


「サティアさんを従者にできた暁には、私の願いを聞き入れてくれる。失礼とは存じますが、そのお約束のご確認でございます」


 アリベルトは恭しく一礼した。こいつの勝手気ままは、今に始まったことじゃないので、もうどうでもいい。


「もちろん分かってるわよ。あなた達のクラブに入ればいいのよね」


 今まで静観していたピアが、盛大に茶を吹いた。


「ちょ、ちょっと待って下さい。レティさんをパーティーに入れるってことですか?」


 あからさまな不満を押し殺して、ピアが聞き返した。


「そうであります。レティ様が加われば、我々のパーティーも、バランスが取れるというもの」


 レティの装備品からして、前衛に見えるんだが、アリベルトは自分を後衛だと位置づけているんだろうか。


「私が入るのは駄目なのかしら?」


「あはははは。そんなこと無いですよ。少しばかり、びっくりしただけです」


 作り笑顔で対応しているが、やっぱり嫌そうだ。無理もない、面倒事が増えるのは確実だからな。


「今なら年会費は無料でございます。これはギルド公認の特別待遇」


「特典みたいに言わないで下さい。それは汚点ですからね」


 ピアが犬歯を見せて、アリベルトを睨みつける。


「今後は銅貨3枚、支払わなくていいのね」


「はい。そうなりますね」


 経緯を説明することなく、ピアは目を逸らして同意した。


「な、な、なんと。ランクも特級へと早変わり。さらにはポーション6種類付いてきます」


 アリベルトは首にぶら下げた、七色に光るペンダントを誇らしげに掲げ、どこからともなくポーションの入った袋を取り出した。


「あら。オーロラ石じゃない。人とは違う物を身に着けたがる貴婦人が好む宝石ね。ちょっと目立っちゃうけど、まあいいわ」


 どこか引っかかりを覚える、言い方だな。


「ポーションは邪魔になるから、あなたが持っていなさい」


「承知しました」


 どこからともなく取り出したポーションは、またどこかに消えていった。


「じゃあ行くわよ。ついてきなさい」


「その前に確認なんだが。レティ、あんた家をつ……出たんだろ? 貴族でもないのに、公爵令嬢なんて名乗ってたら問題になるんじゃないか? 不要なトラブルは、俺はごめんだからな。そのへんは改めてくれないか」


 ぱちぱちと丸い目を瞬かせて、レティが首を傾げた。


「えっ。誰もベルティ公爵令嬢なんて名乗ってないでしょ? 私はレティ公爵令嬢よ。それに許可はもらっているわ」


「許可ってなんだよ。それにレティ公爵令嬢って──まさか君自身が叙爵されたのか!?」


「へっ? ええまあ、そうよ。そうとも言えるかもね」


 一瞬だけ挙動不審を見せたが、それを無かったことにするように、レティは腰に手を当てた。そして、根拠のない自信に満ちた笑顔を振りまいてくる。


 あーこいつは駄目だ。このタイプの笑顔を見せる女ってのは、往々にして、不幸を運んでくるんだよ。


「どこの誰に、どんな許可をもらったんだ? そこんとこ、はっきりしてもらおうか」


「だから。名もなき公爵令嬢としてだったら、名乗りを上げてもいいって、お父様から許可をもらっているのよ」


「それは、つまりは駄目だってことだ」


 久しぶりに真顔で否定してしまった。


「なら、なんでお父様は許可を下さったのかしら?」


 たぶん適当にあしらわれたんだろうな。知らんけど。


「ともかく今後は止めてくれ。君が恥をかくだけならまだいいが、ベルティ家と衝突する可能性だってあるんだ。もしくはその逆だな」


「逆ってなによ」


「ベルティ家をこころよく思っていない勢力に、レティが利用される危険性だな」


「ご安心ください。その為に我々がいるのですから。私のことはセバスと、そしてサティアさんは、ポチとお呼びください。さすれば何処におられようとも颯爽と駆けつけ、悪を退治することを、お約束いたします」


 お前の場合は、悪い奴らを連れてきそうだけどな。つーかポチ言うな。


「まあいいわ。どのみち公爵令嬢としての威光なんて無かったし、もう私もソロじゃないんだから、無理しなくてもいいわよね」


 ……無かったか。


「そうであります。レティお嬢様は1人ではありません。すでに3人もの下僕を手に入れたのですから」


「えっ。私もですか!?」


 自分まで人数に含まれていた事に、かなり動揺したピアは、椅子ごとひっくり返りそうになっている。


「ピアさん。初対面で厚かましいと思われるかも知れないけれど、あなたとは良き友人関係でありたいわ。駄目かしら?」


 レティは右手を差し出した。


「ピアでいいですよ。下っ端職員ですから、なにも出来ませんけどね。それでもいいのなら、よろしくお願いします」


 ピアがレティの手を握ると、レティは両手でピアの手を包んで微笑んだ。意外なことにピアも笑っている。2人とも、どこか嬉しそうだった。


「それじゃ私の入部手続き、よろしくね」


「入部になるんですか? まあなんでもいいんですけど」


 それだけ言うと、ピアは受付カウンターへと消えていった。


「これで話しは済んだわね。ポチ行くわよ」


 さっそくきたか。


「俺はサティアだ! それで行くって、どこにだよ?」


「すぐそこよ。ギルドを出てすぐの武器屋よ。そこの店主をギャフンと言わせてやるんだから」


「ギャフンってなんだよ、ギャフンって。穏やかじゃないな」


「はっはっ、ご安心ください。クエストに出る前の、装備品を整えるフェーズなだけですよ」


 装備を整えるって、依頼もないのにか?


「ほら、はやくはやく。さっさと行くわよ」


 レティに背中を押されて、俺はギルドを後にした。

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