074 仕立屋店主、ウェーブは怠け者
「あ~・・布を仕入れてきてくれたんだね~・・あんがとさん・・・」
ぼりぼり頭をかきながら、ふああと一応客人がいるのにお構いなしででかい欠伸をする。
この人がウェーブさん、らしい。
「リタ、こいつがウェーブ。この店の店主で村一番の裁縫上手であり、村一番の・・・怠け者だ」
「よろしくぅ~・・・・こうやってリタさんとはお話するのは初めてだねぇ~・・・」
「は・・はぁ・・・」
またでかい欠伸をするウェーブさんに、マイムとレイニーちゃんが呆れた顔をする。
昨日のムゼンさん登場の騒ぎでも、気にせず殆ど寝ていたらしい。
怠ける事に関しては、譲らない姿勢なんだって・・。
それを聞いてムゼンさん怒るかと思ったけど、意外にも感心してた。
『周りに流されず、自分の信念を曲げない奴は嫌いではない』
まあ確かに、平気でお客の前で無造作にお腹をかいてるくらいだから、周りに流されないタイプには違いない。
「にしてもウェーブ、何度も言うが少しは店の中を片付けろ。これじゃどこに何があるか分からないじゃないか?」
「別にいいだろ~?作業場は綺麗にしてるんだから~・・」
確かに、ミシンが置かれている作業場はちゃんとしている。
棚には、筒を軸に巻かれている布が何本もちゃんと色分けされた状態で置かれてる。
その作業スペースだけは埃一つなかった。
でもそれ以外は無法地帯だ。
置くべき場所にある物がバラバラに彼方此方にある。
「じゃあウェーブさん。お茶のカップはどこ?」
「・・・・ん~・・・あそこ、かなぁ?いや、あっち?」
「ではティーポットは?隣のおばさんから貰っただろう?」
「・・・・・・・あー・・・・多分、あの中?」
あちらこちらを指差して、首を傾げるウェーブさん。
絶対、本人も分かってない。
「・・・・あの、いくつか聞いてもいいですか?ウェーブさんは、作業スペースに置いてある物は、どこに何があるかきっちり把握しています?」
「んあ?ああ、それは勿論~。それだけはちゃんと頭に叩き込んであるよ~。大事な商売道具だしね~。仕立ての仕事はあたしにとって誇りだからね~。あそこだけはきっちりしているよ~」
それは分かる。
明らかにそのスペースだけ、本当に大事にしている事が伝わるくらい綺麗だから。
でもだからといって、それ以外を蔑ろにするのはどうかと思う。
だって私は。
「それは素晴らしいと思います。でも歯ブラシ類は洗面台に、食べ物や食器は台所に、と他のものも整理しておくのも大事だと思います。勿論人それぞれ、その人に合った生活はあるでしょうけど、これはいくら何でも雑すぎます・・!」
「り、リタ・・・?」
ぷるぷる震える私に、マイムもレイニーちゃんもムゼンさんも困惑した顔をする。
でも、でも・・ああもう我慢できない。
「ウェーブさん・・・。」
「は、はい・・・・」
ウェーブさんも、神妙な顔をして姿勢が正しくなった。
「仕事をしている人にとって作業スペースはいわば聖域。他の人に彼方此方弄りまわされたくない、そんな大切な場所。さっきウェーブさんもどこに何があるが把握してるから、他人が弄るのは当然・・嫌ですよね?」
「あ、ああ・・・・」
「ウェーブさん・・・お願いがあります」
「な・・何だ?」
ごくん、と誰かが息を飲む音がした。
「約束します。絶対、ウェーブさんの聖域には手を出しません・・。ですがその変わり・・・!」
私はがたんと立ち上がった。
「お掃除、させてください!!!!!!」
しーーーーーーーーーーーーーーーーん。
静寂。
皆、目を真ん丸にしている。
でも私はいたって本気だ。
何を隠そう、私は綺麗好きである。
だから、この無法地帯はどうしても我慢できなかった。
ウェーブは女性です
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