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誰か俺に異世界人の指導の仕方を教えてほしい【更新停止中】  作者: クスノキ
第2章 騎士の中の騎士と騎士あらざる騎士
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第28話 軍服たち


 他の騎士の目を盗んでシイナと真琴は森へ入った。森は静かで相変わらず生命が感じられない。つまりシイナの武器となる白の精霊が少ない。精霊結晶である程度の補充が利くとはいえ、白の精霊の不足はシイナにとってかなりの痛手だ。


「……どこ、ですかね」

 生物は皆息絶えたはずなのに、森全体がどことなく騒がしい。肌をピリピリ刺す感覚が、()()()()不穏な気配を伝えてくれる。あくまで何となく。けれどシイナはその何となくを大事にして、ここまで生き延びてきた。


 内心迷いながら、しかし一見すると迷いなくシイナは森の中を進む。その目はこれまでになく真剣で、彼女が油断なく気配を察知しようと気をとがらせていることが分かる。

 真琴も彼女の真似をして、周囲に意識を張り巡らせていた。


 ザクザク、ザクザク。鳥の鳴き声一つしない森は、静かであると同時に不気味だ。シイナは時折立ち止まって耳を澄ませる。真琴も魔眼を全力で使用して。精霊の動きに異常がないか観察する。

 真琴の目には精霊は宙に浮くフワフワした、ビー玉のように見える。精霊は青と緑が多く、冬だからか赤が少ない。黄はいつも通りで、黒と白は元から少ないが黒がやや多く、白が少ないように見える。



「あ」

「どうした?」

 森に入って一時間。シイナは思わずと言った様子で声を上げた。


「見つけた、ですね。敵の痕跡」

 シイナの視線の先には不自然に折れた茂みの枝と、巧妙に隠された野営の跡があった。


   *


 シイナは折れた木の枝の先端や土の様子から、野営の状況などを調べている。

「……野営が行われたのは最近、です。人数は三人。二日か三日前。足跡は……残てないですね。木の上を移動ですか。手練れ、です?」


 嫌な予感は当たった。シイナは顎に手を当て、これからの動きを考える。

(手練れと言ってもおそらく王国の騎士くらいの実力ですね。なら私一人でも対応できるです。が、相手が分散しているとなると)


 痕跡を残さないように立ち回っているということは、目的は偵察か、暗殺か。少なくとも真っ当な騎士や兵士のやることではない。そして木の上を移動しているということは、敵はエクスのような重装備ではなくシイナやイラのような軽装のはず。


 重厚な武装で戦力を嵩増しできる重装歩兵と違って、軽装のまま動ける暗殺者を育てることは難しい。長物が使えず、あれこれと武器を持てない以上、精霊術や戦闘センスがないと戦えないのだ。


 シイナは他に手がかりになりそうなものがないかを探すが、特に見つからない。その間、真琴は周囲の索敵を続けていた。

(仮に相手が帝国だとして、大事な暗部の人間をこんな森に配置するですかね?目的はイラさんの暗殺?いえ違和感が消えないですね。別のアイデアを探した方がいい気もするですね。ひとまずはエクスさんに連絡を……)


「シイナ!」

「なっ!」

 思考を切り裂くような真琴の声。ハッとしたシイナの目の前に、突然軍服を着た男たちが降ってきた。


   *


 いつからいたのか。どうして自分が気づけなかったのか。勘が働かなかったのはなぜか。全ての疑問を置き去りにしてシイナの体はいつも通り、反射的に動く。

 精霊を集め、陣を形成し、詠唱。


「エザク」

 樹上からナイフを持って殺しに来た男たちに、広範囲の風を浴びせる。空中で防ぐ術のない彼らは体勢を崩し、その隙にシイナは大きく後ろに飛んで真琴の隣に降り立ち、地面すれすれまで身を伏せる。右手にはすでに『謙譲』の短刀を抜いていた。


「なんだこいつら!」

 真琴が剣を抜きながら叫ぶ。数は三人。全員男だ。彼らは皆同じ臙脂色の軍服を着て、そして同じ表情をしていた。

 徹底した()()()。人間でありながら非人間的な様子に、シイナはわずかに顔をしかめる。


「暗部の……ですかね」

 彼らの身につけている臙脂色の軍服には国章の類はついていない。しかし臙脂色の軍服を採用している軍など、シイナは一つしか知らない。だからどこの国の所属かなど聞かない。その必要がない。

 だからこそ暗部かどうか、牽制代わりに問いかけてみたが、返答は無言の刺突だった。距離をつめて、鏡合わせのようにピッタリ息のあった刺突を、シイナは『謙譲』の短刀で凌ぎ、真琴も龍剣で払いのける。


「うおらっ!」

 返す刀で真琴が龍剣を軍服の一人に振り下ろした。かすっただけでも激しい衝撃が襲うであろうその一撃を、軍服は紙一重のところで避ける。その顔はやはり無表情。淡々と、機械的なまでの動きだ。

 その様子を気味悪く思った真琴は続けざまに剣撃を見舞う。その鋭い斬撃を軍服はやはりすんでのところでかわす。龍剣が軍服の間は一センチほどの間しかない。

(こいつ……恐怖心とかねぇのかよ!)


 対峙する軍服はイラやシイナに比べれば技量は明らかに劣る。なら真琴の攻撃も当たりそうなものだが当たらない。思い切りが良すぎるのだ。戦いに臨む高揚感も、死を恐れる恐怖もこの男からは感じられない。

「くそがっ!おかしな薬でも使ってんのか!?」

「案外、当たり……かもですよ」



 真琴が一人を相手している間、二人と戦っていたシイナが答える。不意打ちの動揺もなく、彼女もまた淡々と男二人のナイフを捌いている。

 軍服たちの操るナイフは、巧みなコンビネーションでシイナを攻め立てる。二人でありながらまるで一人でナイフを振っているかのような。そんな印象を受ける動きだ。シイナたちを発見した速さといい、高度な連携ができる訓練か、何かしらの道具を持っているのかもしれない。

(あながち間違いでもなさそうですね)


「イアヅオズ ウフオイク」

 シイナの青い瞳が無機質な男を捉える。黒の精霊を集めて詠唱。使う精霊術は相手の恐怖を増大させる術式だ。陣を描いた黒の精霊が、目の前の軍服の中へ入って行く。


「……」


「やぱり、ですか」

 その精霊術を受けても、軍服は変わらずの無表情で、シイナを突き殺そうとしてきた。感情に干渉する精霊術が意味を為していない。すでに何かしらの感情補正を受けているに違いない。

 結果を予想できていたシイナは軍服のナイフを平然と受け流す。


「膂力は人並み。速度も……反応も並み。ただし感情が、ないよう、ふるまい。これだけなら、薬を使って底上げした使い捨ての兵隊、です」

 シイナは一人目の軍服のナイフを払い、もう一人の膝を蹴り砕く。ベキン、と痛々しい音がしたが、骨を砕かれてもなお、男の表情に変化はない。


「ぬ」

 それどころか動きにも変化がなかった。足が折れたことなどないかのように男はナイフを突き出す。シイナの動きに乱れが生まれた。乱れたテンポに男たちがつけこみ一気呵成に攻め立てる。


(手札を切るですか)

 やむなし。シイナは『謙譲』の能力を発動。存在感を希薄にする。さすがにこれは効いたのか、シイナの姿を探すように軍服たちの視線が彷徨う。

 その隙にシイナは軍服たちの背後に回り込んだ。狙うは首筋。痛みを感じずとも死なないわけではないだろう。首を落とせば大抵の人間は死ぬ。そうでなくとも手足を落とせば動けなくなる。


 軍服たちはシイナに気づいていない。いける。そう思った瞬間。


「甘いねぇ」


 ゾッと、背中に悪寒が走った。シイナは慌てて身をよじってその場から逃げる。だがそれよりも早く。


「あがっ!」

 シイナの肩を高速で飛ぶ弾丸が突き抜けた。鮮血が冬の森を舞った。


   *


「シイナ!?」

 真琴は戦闘の途中だったが、シイナの負傷に気づき駆け寄る。背後から斬りつけてくる男がいるが、今はシイナの方が優先だ。

「無事か!」

「な、なんとか……ですかね」


 真琴は地面に片膝をついたシイナを抱えると、迷うことなく逃走に入った。右肩に穴を空けたシイナが弱々しく答える。

 女神からのチートで得た肉体は森の中でも素早く移動できる。木々の隙間を縫って追ってくる軍服たちを振り切るのに、そう時間はかからなかった。


 真琴は顔から大量の冷や汗をかくシイナの治療をしようと、着ていた衣類をちぎって素早く包帯替わりにする。空いた穴から血が止まらない。それでもシイナは『謙譲』の短刀を手放しはしなかった。

「下手……打ちました」

「黙ってろ」

「マコト」

「黙ってろ!」


 真琴は焦りをにじませた声を上げる。遠くから男たちが追ってくる音がする。大方、シイナの流した血を追ってきているのだろう。

 時間はない。真琴が雑な止血をすると、シイナは腰の物入れから黒い丸薬を取り出して口に含んだ。シイナは渋い顔で丸薬を噛み下して飲みこむ。

「うぇっ……まずい、です」

「何飲んだんだよ」


「落ち着いて、下さい。ただの痛み止め……です」

 不安そうな真琴をなだめるため、シイナは努めて柔らかい口調で話す。実際シイナが飲んだのは痛み止めだ。ただし“影衆”直伝、即効性だが副作用もばっちりな薬だ。

 痛みを麻痺させ、手足を失うような重症であってもいつもと同じように戦うことができる薬。効果は一時的で使い過ぎると依存症で心身を壊す物騒なものだ。


 だがそのことをわざわざ真琴に話す意味もない。シイナは影衆だが、体は戦闘をこなせるだけで普通の女と変わりない。シイナの体はイラや真琴ほど頑丈ではないのだ。

 だから薬に頼るほかない。即効性の薬のおかげで、痛みがすぐさま消えてきて、思考がクリアになる。シイナは状況を整理しながら最善の手を考える。


 取れる選択肢はそう多くはない。相手の数は三人だが、薬か何か使っているのか感情が抑圧されている。その上、気配に敏いシイナが間近に迫られるまで気配を感じ取れなかった。そんな連中に加えてシイナを狙撃した相手も含めれば四人だ。しかもこれ以上増える可能性も高い。もし今以上に敵が増えれば選択肢は一つになってしまう。


 狙撃手がシイナの隠形を見破った方法も気になるところだが、それは後回しだ。

(私を置いてマコトだけが逃げるというのは……マコトの性格を考えると無理。とすれば私もマコトも頑張るしかなさそうですね)


「よし」

「お、おい!」

 ぐっと力をこねてシイナは立ち上がる。貧血で視界も体もぐらつくが、何とか立て直す。


「ウカイトク」

 これからのことを考えると、穴の開いた右腕は邪魔だ。シイナは黄の精霊術で右腕を傷口ごと固着させる。こうすれば血も止まるし、腕がぶらついて走る速度が落ちることもない。


「マコト。時間が……あり、ません。でも二人……とも生き残るための作戦ある、です」

「なんだよ」

 ゴクリとつばを飲みこんでマコトが尋ねる。


「相手は私を狙撃……した奴含めて、四人。全員マコトが、足止めしてください」

「……それで?お前はどうすんだよ」

「走って、イラさんたちを呼び……行きます」

 ここからイラが概念爆発を起こした場所まで、シイナが走れば十分でつく。説明に長く見て一分かかるとして、帰ってくるのにまた十五分。


 約三十分、真琴は一人で耐え抜かなければならない。かなり危険な仕事だ。

「分かった。俺に任せてお前は早く行け」

 だが真琴は考えることもせず、二つ返事で了承した。


「いいん、ですね?」

「あぁ。俺に任せろ。それに……」

 真琴はえらくいい笑顔で言い放った。


「別にあいつらを倒してしまっても構わないんだろ?」


 それが死亡フラグで、真琴なり冗談だと知っている人間は、この場において誰もいなかった。

 戦闘パートの開始です。二章は戦闘が多いのでお試しも含めて一応、敵味方の状況を載せておきます。


 戦況管理

 味方 真琴(無傷、一人で軍服と対峙、死亡フラグを建築)・シイナ(右肩を負傷、薬を服用、一時戦線離脱)

 敵 軍服A(膝を粉砕骨折)・軍服B(無傷)・軍服C(無傷)・狙撃手(無傷、所在不明)

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