ローアル・side story/僕の本当の幸福は②
その日の仕事の帰り道、国庫管理の長であるポルコ様と同僚たちに、貰ったばかりの給金を奪われてしまった。
大人数人がかりでは来られては防ぎようもなく、それを誰かに訴えたところで、身分のない僕の言い分など誰にも聞いてもらえないだろう。
けれど悔しかった。
あれで、エステレラに似合う髪飾りを買ってあげるって約束したのに。
顔の擦り傷を撫で、よれたシャツを直しながら、僕は重たい足を西棟に向かわせた。
「あの娘ならいないわよ。今日も陛下のお召があったみたいだから。」
「…え…?」
西棟に戻ると、エステレラの部屋の前でドアをノックしようか迷っていた僕に、通りかかった複数の女使用人たちが話しかけてくる。
「…これで何度目かしら?
何でもあの娘は陛下のお気に入りみたいだからね。
…あの娘いくつだっけ?まだ少女でしょうによくやるわよね。」
「汚い貧民ですもの。陛下をあらゆる手管で籠絡なさっているんでしょうよ…」
得意気に話す使用人を、僕は思わず睨みつけていた。
「な、何よ…!みんな噂していることなのよ!
陛下があのエステレラとか言う下賎な娘に誑かされているって!
…み、見てなさい、そのうちあなたはあの娘に捨てられるわ!」
馬鹿みたい、と怒りながら使用人たちはそこを去っていった。
また皇帝に呼び出されたのか?
こんなに頻繁にエステレラを呼ぶなんて、皇帝は一体何が狙いなんだろうか?
本人は何もされてないと言うけれど。
二人がそばにいると思うだけで、胸がチリチリと焼けつく。
エステレラが僕を見捨てるなんてあり得ないけど。
それでもこの、どうしようもない気持ちを…
———ようやく皇帝の元から帰ってきたエステレラは、僕を一目見て、悲しそうな顔をした。
誰にやられたのかと聞かれたが、僕は応えなかった。
明らかに皇帝との間に何かあるのに、エステレラは何も話してくれない。
余計に分からなかった。
使用人たちに言われたことを真に受けるわけじゃないけど、皇帝がエステレラに興味を持つ理由が分からないのだ。それ以外は。
どれだけ信じていても皇帝が、身分も歳の差も超えて、恋でもしたんじゃないかと、馬鹿なことを考えて。嫉妬でおかしくなりそうになる。
僕のケガが皇女の仕業ではないかと疑ったエステレラに、思わずムキになって言い返していた。
「ちがうよ。…皇女様は…助けようとしてくれているんだ。
あの方は本当はお優しいのかもしれない。」
「…え…?」
こう言えば、君も少しは嫉妬してくれるんじゃないだろうか。
驚いて呆然とするエステレラを見て、僕は泣きたくなった。
本当に情けない。
「…ローアル?皇女様と何が…」
「何でもないよ…何もない。疲れたからもう先に寝るね。おやすみ。エステレラ…」
こんな子供じみたことでしか、君に対する想いを表現できないなんて。
心配させないよう笑った顔でさえ、わざとらしかったかもしれない。




