ローアル・side story/失ってしまった僕の星⑤
◇◇◇
4年前。僕とエステレラは、エスピーナ皇女のきまぐれによってトルメンタ帝国の城の門をくぐった。
僕を『飼いたい』と言った皇女の物欲の目が、最初から恐ろしいと感じていた。
身を挺して庇ってくれたエステレラを巻き添えにする形で、城に来ることになってしまったのが悔やまれた。
何とか二人で城を抜け出せないかとしばらく観察したが、目ぼしい位置に兵が置かれていて一寸の抜け道もなかった。
トルメンタ帝国の皇帝は血も涙もない暴君だと聞いていた。
これほど厳重に兵を采配しているのが皇帝だというのも頷ける気がした。
宛てがわれた使用人の部屋でエステレラと夕食をして間もない頃、兵がやってきた。
「皇帝陛下がお呼びだ。…ただし、エステレラのみだ。」
…え?
耳を疑いたくなるような命令。
少し前まであの煌びやかな皇座に座り、僕たちと謁見していたあの恐ろしい陛下が、なぜエステレラを?
訳もわからず僕は胸騒ぎを覚えた。
あの燃えるように鋭い赤い瞳、鋭い目つき。
まるで狙った獲物は逃さないとでも言いたげに僕らを見つめていた皇帝・アウトリタ・タエヴァス・トルメンタ。
彼が一体、エステレラになんの用があると言うのだろう?
気がつけば僕はエステレラの裾を掴んでいた。
行ってほしくなくて。
僕の不安を察したかのように、エステレラは掴んだ手にそっと触れて、いつものようにふわりと笑った。
『心配しないで。』
目が、私があなたの側を離れないのは分かっているでしょう?と言っている。
それなのに僕はずっと不安だった。
エステレラが奪われてしまう。
———その日の夜、エステレラは長く部屋に戻らなかった。
僕はベッドに寝そべり、天井を仰ぎながら隣の部屋に彼女が戻ってくるのを待っていた。
その時、部屋の外を通りかかった、他の使用人たちが話す声が聞こえた。
「…何で…あの下賎な娘が陛下に呼ばれたのかしら?」
「そうよね。しかも陛下の自室でしょう?
今まで亡くなった皇后様以外、後宮に側室だって入れたことのないお方よ?
…まさかとは思うけど陛下は幼女趣味がお有りなのでは……」
「し!やたらなことを口走るものじゃないわ!誰かに聞かれたらどうするの?」
「そうね、ごめんなさい。行きましょう。」
使用人たちが慌ただしく去って行ったが、僕の心臓は激しく脈打っていた。
胸がぎゅっと締め付けられる。
エステレラ…無事なのか…?
今の話が本当なら…僕はどうしたらいいんだ。
いますぐ君を皇帝から奪い返したい。
どうして僕はこんなにも無力なんだろう?
もしも皇帝が君に少しでも触れたなら…
皇帝を…殺してやる…!




