前世編/魔術師ディーの幸福(ディーside)
しかし魔力によってエネルギーを通じ物体を感じることができたから、そこまで不便は感じなかった。
「ディーのその目も…いつか治ればいいのにね。」
中庭でお茶を楽しんでいるとエステレラが呟いた。
真剣な眼差しで、食い入るようにこちらを見ていることだろう。
憐れむというより、いつか治してやるぞ、という希望に満ちた目をしているはずだ。
「わたしは別に見えなくても良いのです。
…これは大切な人を傷つけた戒めですから。」
「大切な人?初耳よ。ディーにそんな人がいたなんて…」
興味津々に呟くエステレラの声に。
お前のことだよ、と考えてふっと笑った。
…お前のことが好きだと気づいたのは、魔法陣の中で死に絶えたお前を見た瞬間だった。
わたしは本当に愚かだった。
しかもお前はわたしのために『ケレブの心臓』を密かに探して、わたしに自由になるように遺言を残していた。
その瞬間、お前がトルメンタ帝国の前皇帝アウトリタ陛下の本当の娘であると気づいた。
あれは、トルメンタ帝国の皇族の血統でしか扱えないのだから。
地獄のように辛く苦しい前世で、お前は狂いながらもわたしを救ってくれた。
……………
…彼女に前世の記憶はない。
それはアウトリタ皇帝にも、トリステル皇后にも共通していた。
お前がいなくなって寂しかった。
だが、こうして生まれ変わったおかげで、幸福なお前のそばにいることができる。
例えお前に記憶がなく、例えわたしの目が不自由でも、側にいることができて嬉しい。
この目は前世のお前に対する償いだ。
それでも安すぎる対価だ。
前世の無垢なお前を殺してしまった償い。
だからこの目は一生治らなくても良いんだ……
エステレラ。
今世こそは側で、お前の幸福を最期まで見届けたい。
それからわずか5日後のことだった。
皇室騎士団員選抜の対戦試合に現れた、ローアルの存在を感じたのは。
纏う気配が前世と変わらないということは、おそらく容姿もそのままだろう。
何でお前まで。
という激しい怒りが込み上げた。
「エス…テレラ…?」
彼の口から驚きと、困惑の声が上がったのを聞き逃さなかった。
〜ローアル・side story①へ続く〜




