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前世編/それでも最期に願うのは①

 

 雪がちらちらと降り出していたせいか、その表情はよく分からなかった。

 金髪の美しい髪は雪風に靡き、鋭く険しい瞳がこちらを見ている。

 出会った頃よりさらに美貌が増しているように思う。

 

 「陛下…いかがなされましたか。」


 思わず声が震えてしまう。

 これまで何年も直接会うことはなかった。

 ここを訪れることもなかった。

 声が上擦ると同時に、胸の奥から激しい感情が湧き出ていた。


 …お母様を苦しめ、皇宮から追い出した女。


 お父様の最後の遺言からおそらく謀り、フォンセに弑逆させた女。

 全ての証拠を消し去り、私が本当の腹違いの皇女だと知って葬ろうとしている女。

 私とローアルをこの皇宮に連れてきた憎い女。


 でもローアルが愛している女。


 「まあ、怖い顔ね。そんなに警戒しないでちょうだい。

 むしろお礼を言いに来たのよ。エステレラ。」


 赤い花びらと、白い雪とが視界を行ったり来たりしている。

 その隙間から覗くエスピーナの顔は、はっきりと笑みを浮かべていた。


 「お礼…?なんのこと…」


 「貴方のおかげで、わたくしはローアルと愛し合うことができたわ。

 ローアルは自分で何もしなくても高い身分を得たし、安定した地位を手に入れた。

 …これも全部貴方のおかげね。

 本当にありがとう。心から礼を言うわ。

 貴方のその薄汚い体でも、本当に役に立つのね。」


 「……やはり、そうだったのね。」


 激しいというより、静かに灯るような怒りの感情が芽生えた。

 小さい子供のようにひどいと露骨に怒り狂い、罵倒したいと思っても、私はもう随分と疲弊していたのだ。

 責め立てる元気も失っていた。


 分かってはいたはず。エスピーナとディー様は共謀していたと。


 エスピーナの顔は笑ってはいるが、目が笑ってはいない。

 初めて会った時と変わらない、自分以外を見下すような冷酷さを持っている。


 「…貴方はディー様と結託していたのね。

 そんな気はしていたのよ。

 そんなに…私がボロボロになっていく姿を見るのが楽しかったの?

 …エスピーナ。

 貴方は私が本当の腹違いの妹だと、知っているのでしょう。」


 ただ冷静に言葉を繋ぐ。

 相手のペースに飲まれてはいけない。

 これ以上惨めになりたくないから。


 「ああ…やっぱりあの女は離宮にいる間に殺しておけば良かったわ。」


 物騒な言葉とは裏腹に、エスピーナは面白おかしそうに微笑っている。

 女皇帝となりすべてを手に入れた女。

 結局欲しかったローアルさえも手に入れた。

 何もかもが、彼女の思惑通り。


 「お父様が…貴方のことを残念がっていたわ。

 もしかしたら貴方が改心するのではないかと。

 でも貴方は結局、何も変わらないのね。」


 今となっては腹違いの唯一の肉親だが、恐らく一生分かり合えることはないのだと、その冷たい瞳を見て確信する。


 やっぱり優しいローアルを、この残忍な彼女に任せられない。

 そう思った。

 しかしエスピーナはさらに、腹が捩れると言わんばかりに声を上げて笑い始めた。


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