前世編/私たちは変わってしまった②
「…呑気なものだ。」
扉を見つめながら何故が不服そうに吐き捨てたディー様に、私は少しだけ眉を崩して笑った。
「ふふ。…もう。どうしてディー様が不機嫌なのですか?」
不思議なものだ。
ローアルとは心の距離が遠くなり、代わりにディー様の考えていることがよく分かるようになっていた。
不毛な恋をしている私に対して、ディー様はいつも機嫌が悪い。
実らない恋など捨てれば良いのに、と言われることもある。
ディー様は本当はとてもお優しい方なのだ。
馬鹿で愚かな私をいつも心配してくれている。
自分でも自覚はあった。決して報われはしないと。
分かってはいるが…
「エステレラ。ケーキを食べないか?帝国一の料理人に特別に作らせたんだ…」
「ええ?ディー様ってば…」
…寂しい。
愚かな私のそばに寄り添ってくれているディー様のおかげで、表面上は笑ってはいるが寂しい。
ローアルと本当はもっと話がしたい。
本当はローアルのそばにいたい。
ローアルと、スラム街で暮らしたあの幸せだった日々に戻りたい。
愛おしい。
狂おしい。
お願い。エスピーナの元になんか行かないで。
私を見て。
そばにいて。そばにいてよ。ローアル………
心がバラバラになってゆく。
『僕たちは月と星だ。離れることはないよね…』
あの夜に言ったローアルの言葉が、今となってはただの幻のように感じていた。
私の父でもある前皇帝を殺すよう仕向けたのはエスピーナだ。
あれほど忠実だったフォンセもきっと葬ったのだろう。
私の母、トリステルを狂わせたのも。私の祖父や親族を処刑したのも。
彼女に対する怒りのようなものは、心の奥底にずっと燻っている。
彼女はローアルに相応しくないと何度も葛藤した。
ドロドロとした感情があふれてきて、冷静な判断ができずにいる。
でもローアルの気持ちを否定することは間違っていると思う。
だから繰り返し考え続けた。
エスピーナといればローアルは、本当に幸福なんだろうか?
母を狂わせてしまうほど残忍なエスピーナでもローアルを本当に幸せにしてくれるんだろうか?
分からない。ずっと答えが出ないまま。




