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前世編/愚かな娘①


 だがさっきの噂を聞く限り。

 きっとディー様が約束を守って下さったのだろうと思えるような内容だった。

 きっと、私が指を失ったことを知らないのだろう。

 小指がなくても何とか刺繍はできたが…

 中途半端に皇女となった今では、仕事をすることもなくなってしまった。


 考え事に耽っていると、向こうから談笑する若い女官たちの声が近づいてきた。

 普段から陰口を叩かれているせいか、何となく会いたくないと私は木の影に身を隠してしまう。


 「それにしてもローアル様は、本当にエスピーナ皇女様………あ、もう陛下だわ。

 皇帝陛下が好きよね。

 前皇帝陛下が亡くなられて悲しんでいた陛下を、彼が献身的に支えたっていうでしょう?」



 ……え?




 「今や宮中のロマンスよね。

 ローアル様って元は下民でしょう?

 なのにあの、上級貴族様の様な銀髪の髪に、アメジストのような薄紫色の瞳に、美しい容姿!

 まるで童話の王子様のように素敵で、陛下にとってもお似合いだわ!

 身分違いのお二人の真実の愛にキュンキュンするわよね!」


 「最近では、陛下と市街にお忍びデートに行かれたという噂もあるわ。

 まるで絵に書いた様なお二人よね。」


 女官たちは熱弁したあと、思い出したように冷めたような口調に切り替えた。


 「…でもほら、この東の離宮の『偽物の姫』がお二人の恋仲を邪魔してるって…」


 「亡くなった前皇帝に引き続き、ローアル様を誘惑だなんて…全くとんでもない悪女だわ」


 その後彼女たちは終始怒りをぶつけるように話し、次第にそこを離れていった。

 木の影に座りこんでしまった私は胸を抉られた様に、そこから動けなくなった。



 ローアルが…エスピーナを支えた…?


 彼女とデートに…?


 見てもいないのに仲睦まじい2人の姿が思い浮かび、ひどく胸が痛かった。


 もし今の話が本当だったらどうしよう?


 ローアルが私と会わないうちに、本当にエスピーナを好きになっていたとしたら…?


 皇室に召し抱えられてからもうすぐで2年が過ぎる。

 私はローアルがいたからどんなに辛くてもここで生きていられたのに…


 不安に駆られていると、近くでガサガサと木の陰が揺れた。


 「まあ、『姫』さま。そのような所でどうなされたのです?ドレスの裾が汚れてしまっていますよ?はしたない。」


 地面に座り込んだ私を見るなり、私付きの女官は下卑た笑いを浮かべながら言った。


 何の用事だろう。

 用がないなら早く行ってほしい。


 「ああ、ところでエステレラ様。ローアル様より手紙を預かっております。」


「え…?」


 そばかすだらけの女官は私の顔を見下したようにまじまじと見つめ、持っていた小さな手紙を無愛想に差し出した。


 女官から離れて急いで中身を確認する。




 『エステレラへ。

 以前していた、一緒に髪飾りを買いに行こうという話だけれど、皇帝陛下が特別に外出しても良いと許可を下さったんだ。

 もし良かったら、今日の昼2時くらいに皇宮の大庭園で待つから来て欲しい。

 ローアルより』


 ローアルからの手紙……!!


 こんなの貰ったの初めて!

 嬉しい…!

 それに元気そうでよかった!!


 貧しい時二人して、独学で字を覚えた。よく、手紙の交換もした。

 何も変わらない文面に、どこかほっとする自分がいる。

 エスピーナとの噂も、もしかしたら違うのかもしれない。

 だってあのローアルだもの。

 自分をこんな場所に連れてきたあのエスピーナには好意を寄せたりしないはずだわ。

 きっと噂は、ただの噂よ。


 私はローアルからの手紙をぎゅっと抱きしめた。


 会えば分かる。


 ローアルに会って直接聞こう。うじうじ悩むのは性に合わないから…


 そうして、この東宮を管理する新しい女官長に申請したところ、思いのほかあっさりと外出の許可が下りた。


 実質、エスピーナに話が通っているのかもしれないけれど関係ないと思った。

 やっとローアルに会えるんだから。



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