前世編/私も本物の皇女だった②
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今から十数年前——。
外交で他国に赴いていたアウトリタは、辺境付近で複数の魔獣の襲来に合う。
討伐目的ではなかったため護衛の皇室騎士は数名、兵も数十名しかおらず、魔獣に有効な魔力を使えるのもアウトリタ以外にいなかった。
この頃のアウトリタはそれなりに高い魔力を持っていたが、一人では限度があった。
苦戦を強いられ、なんとか魔獣を退治できたものの数名の騎士と兵を失うという事態に陥った。
またアウトリタも、この戦いで魔力をすっかり使い果たしていた。
さらには肩から腕にかけて魔獣の大きな爪で切り裂かれており、かなり厳しい状況に立たされていたのである。
森で瀕死のアウトリタを見つけたのは、辺境伯の一人娘であるトリステルだった。
トリステルはすぐに従者を呼び、手分けしてアウトリタ一行を辺境伯の城に連れ帰った。
領地の優秀な医師や看護師を呼び、彼らに手厚い看病をほどこしてー。
危機を脱し、アウトリタが目覚めた時そばにいたのは、赤茶色の髪をし、澄んだ薄茶色の瞳をしたトリステルだった。
「そなたが救ってくれたのか…?」
「いいえ。私はあなたたちを森で見つけて、城に連れ帰っただけ。命を救ったのは優秀なお医者様ですよ。
私がしたことと言えば、あなたたちの額の汗を拭ったことくらいです。」
そう言って屈託ない笑顔を見せたトリステルに、アウトリタは一瞬で引き込まれていた。
聞けばトリステルは、アウトリタをトルメンタ帝国の皇帝とは知らず、他の騎士や兵と同様付きっきりで看病していたという。
「アウトリタ皇帝陛下とは知らず…
娘は今年23歳になりますが、この辺境伯の跡を継ぐと決めてから誰とも結婚せず…
少々おてんばなのです。
もし何か無礼をしていたら…どうぞ、田舎娘として寛大なお心で見てくださいますよう…」
齢29歳ながらトルメンタ帝国の暴君としてすでに世界に名を馳せていたアウトリタに、トリステルの父親である辺境伯はブルブルと震えながら言った。
「無礼などと。生き生きとした、心根の優しい娘なのだな。」
「そうですよ、お父様。いくら私がお転婆とは言え、アウトリタ皇帝陛下にその様に紹介するのはどうかと思いますよ?」
「こ、こら!トリステル!」
両腰に手を据え、揚げ足を取るトリステルに父親の顔はますます真っ青になった。
その様子を見ていたアウトリタは、まるで子供のように声を出して笑った。
まだ傷が痛むはずなのに。
「クククッ…アハハハッ!」
「へ、陛下…?」
純朴な田舎貴族の娘と、父親のなんとも仲睦まじい姿がアウトリタの心を刺激した。
また無事に助かった騎士や兵たちも、暴君と恐れられていた皇帝がそうやって笑うのを目撃し、誰もが驚きを隠せなかったという。




