前世編/皇帝と偽物の姫③
心臓を貫かれ、しばらくキュルマの体は痙攣していたが、そのまま生き絶えた。
部屋の絨毯に真っ赤な鮮血が広がっていた。
にも関わらず、エスピーナはまるでゴミでも見るような虚な表情をする。
フォンセもまた、素早くキュルマから剣を引き抜いた。
大量のキュルマの血が皇室騎士団の白い制服に飛び散っていたものの、彼もまた全くの無表情だった。
「まさか…あの時のあの下賎な女が身籠っていたというの?
…あのエステレラが…腹違いの妹ですって?
本物の…皇女ですって?
…汚い。
下賎な者の血が流れてる妹なんて、心底イヤ!
汚らわしい…!!!」
かすかに蘇る過去の記憶。
エスピーナの脳裏に朧げながら、赤茶色の髪をした卑しい女の姿が浮かんできた。
「…わたくしは確かに追い出したわ。
卑しいあの女を。
お父様を誘惑したあの女を。
生きているのも辛いくらいに追い詰めたわ。
なのに……あの女がエステレラを産んだですって?
かつてわたくしのお父様を横取りしたあの卑しい女が、あの女の産んだ娘が、今わたくしのローアルを横取りしている!!!」
ハアハアっと、荒い息遣いをしてエスピーナは考えを一つに纏める。
「…ようやく腑に落ちたわ。
お父様があの女を庇っていた理由。
出会ったその日から加護をかけた理由。
強引に皇女にした理由。
お父様はあの子を娘として愛しているのね。
…そんなの絶対に許さない…!!
卑しいあの子も!!!
わたくし以外の娘を愛するお父様も!!」
やがてちらっとフォンセの方を見て……
「…ダメよ、ね?フォンセ?
トルメンタ帝国に皇女は1人でじゅうぶんよ。
ね?そうでしょ?」
「は!おっしゃる通りでございます。帝国の皇女は、エスピーナ様ただお一人です。」
「お父様が卑しい血をこのトルメンタ帝国に残すなら。
お父様がわたくしを一番に愛さないのなら。
お父さまを…この国のために…
もう、殺すしかないわよね?
ねえ、フォンセ。あなたが…やってくれるわよね?」
大きな窓の外に見えるのは薄暗い月。
その逆光を浴びたエスピーナの顔は笑っていた。
重大なことを決意した顔。フォンセは思わず身震いした。
頬に飛び散った血を拭いながら。
「陛下を、この私が………!」
《皇帝弑逆》の命令に対し、フォンセは有り得ないほど興奮していた。
「卑しい血をこの国に取り込むという、異常を来した皇帝陛下を弑逆するのですね。
確かに、高貴な血筋のエスピーナ様を守るためにも、絶対にそうしなげればなりません。
そうすれば皇位継承権一位のエスピーナ様が、この国の高貴な皇帝となるのですから。」
帝国始まって以来の、女性の皇帝。
しかもエスピーナはまだ17歳。
「これほどまでに高い志をお持ちだとは。
なんと高貴。
なんと崇高なるお方。
これはトルメンタ帝国の高貴な血筋を守るため。帝国の崇高な未来のためなのですね。
下賎な民の血を、この誇り高きトルメンタ帝国に取り入れようとした皇帝に、制裁を加えるのは当然のことです!」
フォンセは大いなる大義のために決意した。




