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前世編/皇帝と偽物の姫③




 《北の皇女宮・エスピーナの私室》。


 式が終わると自室に戻ったエスピーナは怒りに震えながらフォンセを呼びつけた。


 その顔は、これまで以上に酷く歪んでいた。



 「フォンセ。ねえ?どう考えてもおかしいでしょう?

 あの小汚い少女がこの国の皇女…?

 わたくしの妹ですって?

 分からないわ。

 なぜお父様が、あのような下賎で卑しい小娘に加護を与えたり、養子にしたのかが。

 確かに噂を流すにはちょうどいいけれど、それにしたって!

 お父様の意図が分からない……!

 不愉快すぎる。

 わたくし以外に娘をつくるなんて…

 わたくし以外に愛を向けるなんて、許さない。

 愛されていいのはわたくしだけなのよ!

 …探ってちょうだい。あの小娘とお父様の本当の関係を!」


 「は!仰せのままに!」


 秘密裏に動き出したフォンセは、密かに懐柔したエステレラの使用人であるキュルマに、その内情を探らせた。


 キュルマもまた、エステレラ付きの女官の長でありながら身分の低いエステレラを快く思っていない人間の1人だったのだ。


 それからキュルマは、アウトリタとエステレラが部屋で会話するのを盗み聞きし、数日してエスピーナに驚くべき報告をした。


 

 【アウトリタ皇帝陛下とエステレラ皇女は真に血の繋がった親子である可能性がある】と。






 「…それは真実ほんとうなの?」


 自室に呼んだキュルマに、エスピーナは目を見開き震える声で問いかけた。


 傍にはいつもの様にフォンセが控えている。

 キュルマは頭を下げながら静かに応えた。


 「はい。この耳で確かに聞きました。

 エステレラ皇女様に対する皇帝陛下の異常なまでのお優しさ、それからお二人の瞳の色が同じ赤色であること、いなくなった母親が得意なのが刺繍であったこと。

 それらを照らし合わせると…

 あれは十年以上前にあの東の離宮に、たった数週間だけいたあの者の…隠し子。

 あの方は、真にアウトリタ皇帝陛下の血を引く、本物の皇女様だと思われます…!」


 そこまでキュルマが興奮気味に言い終えると、エスピーナは蒼白い顔をしてうつむき、また唇を噛みしめた。


 「お前は…その話を誰かにしたかしら。」


 いつもとは違い、一段と低い声でエスピーナはキュルマに尋ねる。

 唇を噛み、拳も血が出るほど握りしめて、これまで以上にない怒りを露にしながら。

 

 「いえ?まだ誰にも…」


 「そう…」

 

 フォンセ、と皇女は腕を上げた。


 「はい。皇女様。」


 呼ばれたフォンセは少しも表情を崩さず、控えていた場から素早くキュルマの前に立ち塞がった。


 「え…?」


 目の前にフォンセの影が差し、そのあまりの至近距離に驚き、キュルマは目線を上げる。

 すでにフォンセは物音も立てずに自身の剣を抜いていた。

 自分の運命を瞬時に悟ったキュルマは、抵抗しようと腕をジタバタさせた。


 「そんな…!!は………話が違います、皇女さま!!!」


 フォンセは一瞬にしてキュルマの口を押さえて床に押し倒し、引き抜いた剣で素早く彼女の心臓を突き刺した。


 彼女の短い呻き声が上がった。


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