前世編/皇帝と偽物の姫②
部屋は、壁紙も絨毯もどこもかしこも贅沢品に見えた。
金や銀の装飾で彩られた家具や置物。絵画。
テーブルの上にはすでに、高価そうな食器やティーセットなども揃えられていた。
奥にはレースのカーテンが備えられた天蓋付きの大きなベッドも。
だけど、どう考えても元貧民の自分にこの部屋は落ちつかない。私はそっと扉の外へ出た。
だがしかし、外で呼ばれるのを待機している使用人たちの陰口を、タイミング悪く立ち聞きしてしまう。
「あんな下賎な小娘が…皇女ですって?
皇帝陛下は一体何を考えているのかしら?」
「養子だなんて…
噂ではあの小汚い体で、陛下を誘惑して籠絡したという話だわ。
考えただけでもおぞましいわね。」
「誰が『皇女様』だなんて思うものですか。
あんな下賎な者。
誰にも認められず、尊敬もされない。
名ばかりの偽のお姫さま。」
使用人たちは上品な顔や声をしながら、私を貶めるように笑っていた。
私だって別に皇女になりたかった訳じゃない。
こんなの、気にしないようにしなきゃ……
でも、それがかえって使用人たちの陰険な差別を助長させることになる。
やがて皇宮内で私は、《アウトリタ皇帝を下賎な体で誘惑した、卑しい姫》と噂されるようになった。
◇◇◇
しかしそんな噂もお構いなしに、数日後には皇室で、私が皇女としての身分を授与するための式が開かれた。
「これより、エステレラをこの帝国の第二皇女とする。」
皇帝はただ淡々と、納得いってない臣下や皇室関係者が見守る中で宣言した。
『似ているのは瞳の色だけだ』
『なぜあのような出自も分からぬ下賎な身分の者が…』
『女官たちの噂通り、その汚い身体で誘惑でもしたのだろう』
授与式では、口に出さずとも来賓たちのそんな陰口が飛び交った。
これが、私の身を案じての皇帝の配慮だと知っている。
だから授与を辞退することもできない。
皇族の紋章が入った煌びやかなドレスを纏い、王座に座っている皇帝の前に跪いて、言われた通りの言葉を吐き出す以外になかった。
「……ありがたく承ります。」
「これからはエステレラは我が国の高貴な皇女となる!
よって何者も、エステレラを傷つけることは許さない!」
これまで噂にあるような暴君ぶりを一片も見せないアウトリタだったが、その時だけは違った。
そこには表情の全く読めないディー様の姿や、フォンセ様の姿もあったが、特にフォンセ様は皇帝の前であるため不快な顔をうまく隠していた。
授与式は滞りなく終わったものの、臣下だけでなく、招かれた来賓の貴族たちさえ誰もが不満そうな顔をしていた。
その中でも特段不満を抱えていたのは、他ならないエスピーナ皇女だった。




