前世編/近づく悪意④
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初めて給金を支給されたローアルは嬉しそうに布袋を握りしめ、暗くなってきた庭を軽快に歩いていた。
しかしその足を阻む者が数人、ローアルの前に現れた。
「ローアルよ。」
「…ポルコ管理長さま?」
肥満体質のポルコはその体をゆっくりと揺らしローアルの目の前に立ち塞がる。
「お前は常日頃、わしらに非常に迷惑をかけているだろう?
卑しい出自であるにも関わらず陛下に仕事を任されたが………ろくに保存食も作れず、品質の管理も適当。」
またいつもの嫌がらせかとローアルはぐっと身構える。
「そんな。僕は言われたことは全てやっております、任された仕事を適当にしたことは一度もございません。」
「いやいや、わしも他の者からそう報告を受けているのだよ。
そして、お前が仕事ができないせいで、他の者が迷惑をかけられていると聞いている。」
目の前にはポルコの部下たちが数人、薄ら笑いを浮かべ、並んで立っていた。
「迷惑をかけたんだから、迷惑料を払ってもらわないとなあ。なあ、お前達。」
「……!」
とっさにローアルは給金の入った袋を背中に隠したが、襲ってきた大人に数人がかりに押さえつけられ、地面にねじ伏せられた。
抵抗も虚しく、ローアルは呆気なく給金を奪われてしまう。
「返してください…!!返して…!っ…!」
「心配するな、ローアルよ。この金はわしらが大切に使ってやるからな。
また来月までがんばって仕事をすれば、もらえるさ。……役に立たんがな。」
「ポルコ管理長、そう言ってまた来月もむしり取るんでしょ?」
「うん…?まあ、そうだな!」
「アハハハ!あんたひでぇ責任者だなあ!」
ポルコたちは無理やり奪った袋を宙でブラブラと振り回し、高笑いしながら去っていった。
彼らにとってローアルは、家畜と同価値しかない。
残されたローアルは俯いたまま、血が出るくらい下唇を噛み締めた。
それからゆっくりと立ち上がり、ズボンの膝部分についた泥をはたいた。
軽快だったほんの数十分前とは違う。
足がただ、ただ、重く。引きずるように宿舎の方へと向かった……
◇◇◇
自身の管理長室で先に待機していたフォンセに、ポルコは媚びへつらうように声を掛ける。
「あれで良かったんですか?フォンセ様。」
実はローアルから金を巻き上げるよう頼んだのはフォンセで————。
さっきのやり取りを上階の官舎の窓から眺めていたのだ。
「ああ。よくやった。ポルコ管理長。」
ポルコは皇室での国庫管理を担う重鎮だが、出自は子爵家である。
一方のフォンセは伯爵家の出自であるため、位の高いフォンセにポルコは頭が上がらない。
実はこのポルコも、自分達に色々と融通してくれる皇女側の人間だった。
そのため、汚れ仕事を頼まれて裏金を受け取るということには慣れていた。
「ポルコ管理長。またよろしく頼むよ。
明日からも、ローアルを徹底的にいたぶってくれたまえ。これは少ないが謝礼金だ。」
満足気に笑ったフォンセが、金貨が数枚入った絹袋をその手に握らせると、ポルコは欠けた歯を見せて笑った。
「はい!フォンセ様のためならば喜んで。」




