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前世編/近づく悪意④

 ◇


 初めて給金を支給されたローアルは嬉しそうに布袋を握りしめ、暗くなってきた庭を軽快に歩いていた。

 しかしその足を阻む者が数人、ローアルの前に現れた。


 「ローアルよ。」


 「…ポルコ管理長さま?」


 肥満体質のポルコはその体をゆっくりと揺らしローアルの目の前に立ち塞がる。


 「お前は常日頃、わしらに非常に迷惑をかけているだろう?

 卑しい出自であるにも関わらず陛下に仕事を任されたが………ろくに保存食も作れず、品質の管理も適当。」


 またいつもの嫌がらせかとローアルはぐっと身構える。


 「そんな。僕は言われたことは全てやっております、任された仕事を適当にしたことは一度もございません。」


 「いやいや、わしも他の者からそう報告を受けているのだよ。

 そして、お前が仕事ができないせいで、他の者が迷惑をかけられていると聞いている。」


 目の前にはポルコの部下たちが数人、薄ら笑いを浮かべ、並んで立っていた。


 「迷惑をかけたんだから、迷惑料を払ってもらわないとなあ。なあ、お前達。」


 「……!」


 とっさにローアルは給金の入った袋を背中に隠したが、襲ってきた大人に数人がかりに押さえつけられ、地面にねじ伏せられた。

 抵抗も虚しく、ローアルは呆気なく給金を奪われてしまう。


 「返してください…!!返して…!っ…!」


 「心配するな、ローアルよ。この金はわしらが大切に使ってやるからな。

 また来月までがんばって仕事をすれば、もらえるさ。……役に立たんがな。」


 「ポルコ管理長、そう言ってまた来月もむしり取るんでしょ?」


 「うん…?まあ、そうだな!」


 「アハハハ!あんたひでぇ責任者だなあ!」


 ポルコたちは無理やり奪った袋を宙でブラブラと振り回し、高笑いしながら去っていった。


 彼らにとってローアルは、家畜と同価値しかない。


 残されたローアルは俯いたまま、血が出るくらい下唇を噛み締めた。

 それからゆっくりと立ち上がり、ズボンの膝部分についた泥をはたいた。


 軽快だったほんの数十分前とは違う。

 足がただ、ただ、重く。引きずるように宿舎の方へと向かった……



 ◇◇◇


 

 自身の管理長室で先に待機していたフォンセに、ポルコは媚びへつらうように声を掛ける。


 「あれで良かったんですか?フォンセ様。」


 実はローアルから金を巻き上げるよう頼んだのはフォンセで————。

 さっきのやり取りを上階の官舎の窓から眺めていたのだ。


 「ああ。よくやった。ポルコ管理長。」


 ポルコは皇室での国庫管理を担う重鎮だが、出自は子爵家である。

 一方のフォンセは伯爵家の出自であるため、位の高いフォンセにポルコは頭が上がらない。


 実はこのポルコも、自分達に色々と融通してくれる皇女側の人間だった。

 そのため、汚れ仕事を頼まれて裏金を受け取るということには慣れていた。


 「ポルコ管理長。またよろしく頼むよ。

 明日からも、ローアルを徹底的にいたぶってくれたまえ。これは少ないが謝礼金だ。」


 満足気に笑ったフォンセが、金貨が数枚入った絹袋をその手に握らせると、ポルコは欠けた歯を見せて笑った。


 「はい!フォンセ様のためならば喜んで。」





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