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現世編/私たちの幸福は③

 

 ◇◇◇



 穏やかな冬の晴れの日。

 レールタ帝国の城に響く私の声。



 「…お母様、お母様ぁ?」


 ドレスの裾を持ち上げ、城の中をきょろきょろと顔を動かしながら走り回る。


 それを見ている衛兵やメイドたち、すれ違う騎士たちは何の一大事だと私に声を掛ける。


 「どうされたんですか?エステレラ様?」


 「何かお困りで?」


 「…皆!そうよ、お困りよ。」


 顔を顰める私の様子に、その場は騒然となってしまう。


 そこに偶然騎士団の訓練を終え、さらに逞しく見目麗しくなったローアルが通りかかる。

 尋常じゃない私を心配そうに見つめた。



 「エステレラ?僕の愛しい人。

 …どうしたの?」


 ローアルは私の額にキスをして、抱き寄せ、自分の中にすっぽりと収めてしまう。


 「ローアル……あの子が、いないの!」


 「…あの子。」


 はて。ローアルは思いついたように笑い、私に熱い視線を送る。


 「…もしかして、僕たちの可愛いラニットを探してるの?」


 「そう…ラニット!」


 語彙力のない言葉を叫んだ。ローアルが私の髪を子供をあやすように、よしよしと撫でた。


 「僕たちの可愛い娘なら、アウトリタ陛下やトリステル皇后と西の庭園で遊んでいるよ。」


 皇室の婿養子となったローアルはすっかり王族の一員として違和感もなく溶け込んでいる。


 ローアルは私の夫になり、皇室騎士の名誉ある爵位を持ち、お父様たちの義理の息子となった。

 今や新しく騎士団に入ってくる新人を指導する教官職を担っている。


 

 ——————————


 

 色とりどりの花が咲き乱れる庭園。


 そこの広く美しい庭には花冠を作ったり手を叩いて歌っているお母様や、ラニットを膝に抱いてすっかり惚気ているお父様の姿があった。


 私は大股歩きに近い歩き方で、そこに向かう。


 「もう…!ラニットが居なくなって探し回ってしまったわ。

 お父様、お母様?

 孫を溺愛するのは良いけれど、ちゃんと私の許可を取ってからにして下さいね?」


 「…だって、ラニットが可愛すぎてつい。」


 私に怒られた自覚があるお父様は、しゅんと小さくなる。


 「エステレラ、ごめんね。けど…ラニットが可愛くてつい。」


 お母様からもまた、似た者夫婦の気の抜けるような言葉が返ってきた。


 ラニットはまだ2歳に満たない、私とローアルのはじめての子供だ。


 天使のように可愛すぎる娘。

 だから両親が絆されてしまうのも分かる。


 それに、そのラニットの隣にはなんと。


 3ヶ月前に生まれたばかりの、レールタ帝国の第一皇子で、私の弟、ジュビアまでいる。


 私がもう20歳になるというのに、なんと皇帝夫妻は第二子を作ったのだ。

 これで次の後継者は安泰ね。なんて。


 いつまで経っても夫婦仲が良すぎるけれど、まあ、悪くはない。


 「ああ、ラニットちゃんもジュビアも可愛すぎてつらい。」


 お父様が2人を見比べて蕩け、お母様もそれを同意と首を縦に2回上下した。


 そこにたまたま魔術師の育成の講義を終えたディーが通り掛かり、遠目にこう言った。


 「皇帝陛下、皇后陛下、エステレラ皇女様。

ご機嫌麗しく。

 ジュビア殿下、並びにラニット様は、今日も一段とお可愛いらしいですね。」


 今だに未婚だが、目が見えるようになってからというもの女性からの結婚の申し込みが絶えないらしい。

 ディーは、眩しそうに目を顰め、2人の子供を遠目に愛でた。


 「ディー、聞いて?!

 お父様たちったらね……………」


 また私はぶつぶつと不満を漏らす。



 だがそこには絶え間のなく、幸福そうに笑う皆が確かに存在していた。


 




      

◆登場人物◆


【ラニット】…エステレラとローアルの娘。

カタルーニャ語:意味:夜


【ジュビア】…皇帝夫婦の息子。エステレラの弟。

スペイン語:意味:雨


★ここまで長い話をお読み頂きありがとうございました。これにて本編は終了となりますが、番外編があります。お楽しみに。


〜本編完・番外編・2人の初夜へ〜続く


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