現世編/認めるしかない(ディーside)
———エステレラが死んだと分かった後、彼女の冷たい身体を抱いて一晩中泣いた。
まれに魔力持ちの人間が自分の命と引き換えに、魔術で相応の対価を取引するのと同じような現象が起きるという。
本当は眠らせるように息を止めるはずだったエステレラが、私が手を下す前に、自分の命を捧げてまで何かを願って逝ったのだと悟った。
その願いが一体何なのか300年も分からなかったが…
…わたしはまた、間違えた。
エステレラが最期に願ったのは、わたしやローアルを憎み、忘れてしまうことだと思っていた。
けれど雪山でエステレラは記憶を取り戻した。
自分の命と引き換えに、ローアルの幸福を願ったのだとようやく分かった。
ずっとひどく壊されたはずなのに、エステレラは最期まで愛する男の幸福を願っていた。
…それほどまでにローアルを愛していたのだと知ると、わたしの想いなど本当にちっぽけだと思い知らされた。
口では彼女を愛していると言いながら、わたしは何をしてあげられただろう?
エステレラが死んでから、エスピーナに死だけを報告した。
遺体を獣に荒らされないようにストレーガ家の土地で、密葬した。
それからほどなくして魔力に包まれた小さな箱と鍵、手紙が公爵家のわたし宛に届いた。
『ディー様へ。
皇室に伝わる『ケレブの心臓』のことを知りました。
トルメンタの城の地下にはエスピーナ様が誰にも近寄らせない、錠付きの部屋があると聞きました。
そこに入るまで壊れた姫だと皆私を恐れるため、とてもうまく部屋まで辿り着きましたよ。
扉の鎖も錠も、『ケレブの心臓』が入った小箱の錠も私が触れると、なぜか簡単に壊れました。
なので地下から持ち出すことができたのです。
…これがある限りディー様はエスピーナ様に逆らえないのでしょう?
これで自由になれますか?
どうかエスピーナ様に縛られることなく、自由に生きれますように…』




