前世編/あなたが居なければ幸福にはなれない②
…約束の時間などとっくに過ぎていたが、アウトリタはエステレラの部屋に入るのを躊躇った。
その代わり扉の前で行ったり来たりしている。
あの雪山以来、どうにもローアルとエステレラの様子がおかしいと感じていたからだ。
…2人の間に一体何があったのか…?
前世で絡んでいたのは間違いない。
けれど…2人ともそれを口にしようとしないところを見ると。
これは時間がかかる問題だなと、天井を見上げて長い溜息を吐いた。
「…あなた。
今はそっとして置きましょう。いつか…あの2人が真実を話してくれるのを待つんです。」
「うむ…そうだな。」
仕方がないと子供のように肩を落とすアウトリタに、トリステルはしっかり寄り添った。
「私はあなたやエステレラが無事に帰っただけで、幸せです。」
見つめ合い、繋がる手。
アウトリタを宥めたトリステルは、愛おしい彼の手を引き、夕食に誘った。
◇◇◇
亡国トルメンタと同じだから、レールタ帝国も北にあるため寒い。
城の外は雪が降り幻想的な世界を作り上げていた。
一度メイドが部屋に入ってきて暖炉に薪をくべて火をつけた。
メイドは2人分の温かなスープや軽食を残してまた部屋を出て行った。
暗くなってきた室内に暖かい暖炉の火が灯ってローアルの美しい横顔を照らしていた。
あれからずっと手を握り、互いの顔を飽きることなく眺めた。
「ねえローアル…私が死んだ後、あなたはどうなったの…?」
ふいにそんなことを尋ねると、ローアルは控えめに、懐かしい表情で笑う。
「…僕はあの国で、皇子として処刑されたよ。
君が死んでから1年と過ぎてなかった。」
「そんな…!どうして…!」
「君を殺した国が憎かったからだ。
君を殺したエスピーナを殺すにはどうすればいいか、ずっと考えてた。
君のいない世界は………ずっと虚無だったから。」
私の瞳から全く目を逸らそうとしないローアルの言葉が、私の胸を詰まらせた。
「…私は貴方が苦しんでいたことも知らずに死んだのね。…ごめんね。ローアル。」
「ううん、君が僕の幸せを願ってくれたから、この幸せな現世があると僕は思ってる。」
それでも。
「もし少しだけ、僕を置いて行った罪悪感があるのなら。」
そう言ってローアルは私の方に身体を傾け、鼻先が触れる距離に顔を近づけた。
柔らかい目線と甘い匂い。
銀色の前髪がさらりと揺れた。
「…キス…してくれる?
ずっと君としたかったことの一つなんだ。」
まるで秒針を刻むように、心臓の鼓動が早くなる。自分でも驚いた。
罪悪感でいうのなら、決して断ることなどできそうにない。
「…う。…私、キスは初めてなのよ?」
顔を真っ赤にした私をローアルは嬉しそうに眺め、優しい声で言った。
「…大丈夫。僕も初めてなんだ。」
「…!私たち、二度も生きているのに純粋過ぎない?」
こちらは恥ずかしくて顔もまともに見れないのに、ローアルは躊躇いもなく私の顎をそっと掴み、自分の方に引き寄せた。
「…仕方ないよ。
僕たちの初めてはずっと僕たちだけのために、大切に取ってあったんだから。」
本当は照れているくせに、力強く、惜し気もなくそんなことを言ってローアルは笑う。
ずっと照れ屋だった彼はどこに…?
緊張して私が目を閉じると、ローアルの甘いお菓子のような匂いが強まり、柔らかい唇が私の唇にそっと触れた——。




