表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/163

現世編/あなたが居なければ幸福にはなれない①


 「…喜んでいたんじゃなかったの?

 いつも瞳が潤んでいたのは本当は泣きたかったから?

 …どれも、あなたは幸せではなかったの?

 ずっと…幸せのふりをしていたの?」


 「うん……。

 あの頃の僕は、ちっとも幸せじゃなかったよ。

 ずっと嘘を吐き続けた。

 好きな人が自分のために身体を失っていく…

 そんな悲しいことやめて欲しかった。

 止めたかった。

 気が…狂いそうだった。

 …君をエスピーナやあの男の魔の手から守りたかった。

 君の取り引きを止めさせるには、僕が幸せなふりをしなければ………と僕も思い込んでいたんだ。

 でもあのやり方は間違っていたんだ。

 結局僕は君を失ってしまったんだから。」


 泣きそうに潤む瞳を見た瞬間、ローアルが私を守るため、偽りの幸福をずっと演じ続けていたのだと悟る。


 …どうして疑い続けてしまったのだろう。


 雪の日に出逢った、あの優しいローアルと何一つ変わっていなかったのに。

 それどころか私のせいで苦しんでいたのに。


 虚な瞳から、ぽつりぽつりと涙が滴り落ちた。


 胸が熱く、息苦しい。後から後から様々な想いが込み上げてくる。


 祈るように両手を握る。ずっと胸の奥に痞ていた、ずっとローアルに伝えたかった言葉が溢れ出していた。


 「…ローアル。わたし、私…も、あなたが好きだった。」



 「うん……。」



 「………ずっと、ずっと……愛してた。」



 「………うん。やっと君の本当の気持ちを聞けたんだね。

 …300年も待ってしまった。

 ようやく想いが通じ合ったと、思っていいのかな。」


 私たちはお互いに気の遠くなるような時間、片想いをしていたのだ。



 やっとそのことを告げることができた私は、心の痞えを下ろした。

 また、安堵したようにローアルも静かに瞳を閉じた。


 「ローアル…あなたの幸せが、私と一緒に生きることだっていうのは、本当なの…?」


 「そうだよ。

 僕の幸せは、君と一緒に生きること。

 …むしろ僕は君が居なければ、どこにいても幸福にはなれない。

 エステレラ。過去も今も、変わらずに君を愛している。」


 ローアルは震えながらそっと私の手を握り、大粒の涙を流した。

 同時に私の瞳からも涙が溢れた。



 「…ローアル。…ごめ…ん…………

 ごめんね。ごめん、なさい……!!

 あなたの手はずっと暖かいままだったのね。

 …あなたを信じれず、心を閉ざしたのは私自身だったのね。」


 苦しかったでしょう?


 私もずっと苦しかったよ、ローアル。

 あなたの気持ちが分からず、ずっと怖かった。


 あなたを信じ切れなかった悔しさが次々と込み上げて、涙が止まらない。




 あまりに長い—————————————



 あの日スラム街で、エスピーナに貴方が見つかったその瞬間から。

 私達、こんなに長く果てしない苦しみの中を歩いてきたのね。


 ローアルの求める幸福は私の側にいることであり、私の願いはローアルの幸福だった。


 私たちは互いに。



 【あなたが居なければ、幸福にはなれない】のだ。



 それが全ての答えだった。



 なんて遠回りしてきたんだろう——————



 「自分を責めないで、エステレラ。

 僕だってそうだった……

 間違った情報しか与えられず、互いの意思を確認する時間もなかった。

 疑心と不安と、憶測と、自分勝手な自己完結ばかりしていたんだ。

 エスピーナはそうやって、僕らを引き裂いたんだよ。

 …あの状況で壊れない方が無理だった。

 実際に僕すらも壊れていたんだと思う。

 僕も狂っていた。

 けれど、それだけ君は僕のことを愛してくれていたんだよね。

 ありがとう、エステレラ。」



 そう言ってローアルは愛おしそうに、私の涙を両手で拭った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ