現世編/あなたが居なければ幸福にはなれない①
「…喜んでいたんじゃなかったの?
いつも瞳が潤んでいたのは本当は泣きたかったから?
…どれも、あなたは幸せではなかったの?
ずっと…幸せのふりをしていたの?」
「うん……。
あの頃の僕は、ちっとも幸せじゃなかったよ。
ずっと嘘を吐き続けた。
好きな人が自分のために身体を失っていく…
そんな悲しいことやめて欲しかった。
止めたかった。
気が…狂いそうだった。
…君をエスピーナやあの男の魔の手から守りたかった。
君の取り引きを止めさせるには、僕が幸せなふりをしなければ………と僕も思い込んでいたんだ。
でもあのやり方は間違っていたんだ。
結局僕は君を失ってしまったんだから。」
泣きそうに潤む瞳を見た瞬間、ローアルが私を守るため、偽りの幸福をずっと演じ続けていたのだと悟る。
…どうして疑い続けてしまったのだろう。
雪の日に出逢った、あの優しいローアルと何一つ変わっていなかったのに。
それどころか私のせいで苦しんでいたのに。
虚な瞳から、ぽつりぽつりと涙が滴り落ちた。
胸が熱く、息苦しい。後から後から様々な想いが込み上げてくる。
祈るように両手を握る。ずっと胸の奥に痞ていた、ずっとローアルに伝えたかった言葉が溢れ出していた。
「…ローアル。わたし、私…も、あなたが好きだった。」
「うん……。」
「………ずっと、ずっと……愛してた。」
「………うん。やっと君の本当の気持ちを聞けたんだね。
…300年も待ってしまった。
ようやく想いが通じ合ったと、思っていいのかな。」
私たちはお互いに気の遠くなるような時間、片想いをしていたのだ。
やっとそのことを告げることができた私は、心の痞えを下ろした。
また、安堵したようにローアルも静かに瞳を閉じた。
「ローアル…あなたの幸せが、私と一緒に生きることだっていうのは、本当なの…?」
「そうだよ。
僕の幸せは、君と一緒に生きること。
…むしろ僕は君が居なければ、どこにいても幸福にはなれない。
エステレラ。過去も今も、変わらずに君を愛している。」
ローアルは震えながらそっと私の手を握り、大粒の涙を流した。
同時に私の瞳からも涙が溢れた。
「…ローアル。…ごめ…ん…………
ごめんね。ごめん、なさい……!!
あなたの手はずっと暖かいままだったのね。
…あなたを信じれず、心を閉ざしたのは私自身だったのね。」
苦しかったでしょう?
私もずっと苦しかったよ、ローアル。
あなたの気持ちが分からず、ずっと怖かった。
あなたを信じ切れなかった悔しさが次々と込み上げて、涙が止まらない。
あまりに長い—————————————
あの日スラム街で、エスピーナに貴方が見つかったその瞬間から。
私達、こんなに長く果てしない苦しみの中を歩いてきたのね。
ローアルの求める幸福は私の側にいることであり、私の願いはローアルの幸福だった。
私たちは互いに。
【あなたが居なければ、幸福にはなれない】のだ。
それが全ての答えだった。
なんて遠回りしてきたんだろう——————
「自分を責めないで、エステレラ。
僕だってそうだった……
間違った情報しか与えられず、互いの意思を確認する時間もなかった。
疑心と不安と、憶測と、自分勝手な自己完結ばかりしていたんだ。
エスピーナはそうやって、僕らを引き裂いたんだよ。
…あの状況で壊れない方が無理だった。
実際に僕すらも壊れていたんだと思う。
僕も狂っていた。
けれど、それだけ君は僕のことを愛してくれていたんだよね。
ありがとう、エステレラ。」
そう言ってローアルは愛おしそうに、私の涙を両手で拭った。




