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現世編/あなたが居なければ幸福にはなれない①


 扉の向こうから現れたのは、心配そうにこちらを見つめているローアルだった。


 皇室騎士団の制服に、よく見ると頬や手の甲に擦り傷や切り傷がある。

 討伐で負った傷だろう。


 それでも………無事に生きて帰って来てくれて本当に良かった。



 「…ローアル?」


 「皇帝陛下に少しだけ、時間を頂きました。

 …話せますか?」


 胸の鼓動が早くなる。


 「…どうぞ。」


 ローアルは、ベッドの横にある椅子に静かに座った。

 私は上半身を起こしローアルと向き合う。


 …今ローアルは18歳。

 私は17歳。


 前世で死んだ歳を一つだけ超えたのだと、ローアルを見て思った。

 最後に見たローアルよりも大人びた雰囲気。

 変わらない銀色の髪に、美しい薄紫色の瞳。


 記憶がなかった頃は華奢な美少年だとばかり思っていたのに、何だか可笑しい。


 …初めはストーカーだと本気で思っていたなんて、とても言えないわね。


 一瞬、人差し指同士をもどかしそうに交差させ、ローアルは低く透き通るような声で言った。


 「…その様子だと、記憶が戻ったのですか?

 …戻ったとかいう表現は変かもしれませんが。」


 彼は懸命に私の心を探るように、こちらを覗き込んだ。


 私は小さく頷いた。

 咄嗟にパァっと分かりやすく喜んだローアルの顔を見ると、懐かしさを覚えた。

 しかし同時に、途方もない切なさも蘇った。


 「ローアル…私あなたが憎くて忘れたわけじゃないの。

 その前に一つだけ聞かせて?あ、今は敬語とか使わなくていいから。」


 私はごくんと唾を飲み込んだ。

 つい最近までトルメンタで過ごしたかのように前世の記憶が鮮明に蘇ったためだ。



 「その…あなたは…エスピーナを…………

 愛していたの…?」


 薄紫色の瞳がいつかの波のように揺らめいた。



 「…僕が愛したのは、エステレラ、君だけだ。

 僕は間違いなく君だけを愛していたよ。」



 そう言ってローアルは目を細めて笑った。

 瞳は真っ直ぐにこちらを見つめ、間違いなく私の姿を映し出していた。


 この瞳が懐かしくて…切なくて、狂おしい。


 膨大な前世の記憶の大部分が、悲しくて堪らない記憶だったから。


 「…けれど…あなたはエスピーナと、その…大庭園でキス…したでしょう?」


 困惑してぐっと両手に力が入る。


 「頬にね。 

 命令されて抱きしめて、世辞を言って、頬にキスした。

 けれど…唇は避けた。」


 「…どうして…?」


 「…僕がキスしたいのは、エステレラ、君だけだからだ。」


 「…!!」


 真っ直ぐに見つめられて、思わず顔を背けてしまう。恥ずかしい。それに混乱している。


 どうして?


 ローアルがエスピーナとキスした辺りから、死ぬ直前までの記憶がかなり退廃的たいはいてきだ。


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