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現世編/魔力暴走②


 真実を黙っていたローアル。

 体を奪い続けた魔術師ディー。

 悪女の皇帝エスピーナ。


 この三人の手によってゆっくりと時間をかけて身体のあちこちを失い、心を壊されていったエステレラ。


 恨まないはずがない。憎んでいたはずだ。


 もう二度と会いたくなかったはずだと。


 命がけで自分の記憶を消し、その願いを叶えようとしたのだろうとディーは推測した。


 「…そうなの?エステレラ。僕のことを憎んでいたの…?

 忘れたかったの……?

 これは僕に対する罰なのか………?」


 降りしきる雪の中で儚気にその瞳が揺れた。



 …ちがう。


 …違う?何が?


 何が違うって言うの?


 何かを思い出そうと、深い部分に触れようとするたびに、頭が粉々に弾け飛んでしまいそうだ。



 …だって…許せ…ない?


 私をこんな風…ローアルを…


 身体を奪っていっ…ディー…を


 …ローアルが愛…した…エスピーナ…を


 だから…を…消した?


 だから記憶を消したの?


 「忘れたかったの?……僕のことを。

 忘れたいくらい…………憎んでいた?」


 愛らしい眉毛が垂れて、顔が項垂れる。

 全身でそれが悲しいことだと分かるほどの、悲壮感が滲み出ていた。


 そんな表情をしないでローアル。


 違うの。違う。違うのよ……


 割れる。頭が。割れてしまう。壊れる。

 また。また?また壊れるの?また壊される。

 何が……


 「違うの…ローアル…私、私は……」



 「……憎まれたっていい。それでも僕は君を愛してるから。」



 聞こえたのはローアルの真っ直ぐに切実な声。

 その瞬間、パァンと何かが。




 何かが弾け飛んだ———————————




 赤い花びらが散るような、風船が割れてしまうような。

 勢いのある水が飛び散るような。


 頭の奥底にある封印されていた記憶。厳重に鍵がかけられた、パンドラの箱のようなもの。


 私の……長く悲しい前世の記憶。


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