現世編/魔力暴走②
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「駄目、私から離れて……!!」
そうどれだけ言っても、あなたは私を離してくれなかった。
冷え切った雪の上。炎のように燃え上がる私を、包み込むように。
華奢に見えても筋肉質な身体に抱かれた私は、まるで子供みたいにその中に収まっていた。
本当に大切なものを見つめるように。
私を優しい瞳で見下ろし、温かい両手で赤茶色のごわごわとした髪を撫でた。
彼の腕と膝の上はあまりに心地が良く、まるでアイスクリームみたいに溶けてしまいそうだ。
今はこの魔力暴走が憎らしい。
このまま、暴走するエネルギーが溶けて消えてくれればいいのに。
「…またこうして、愛おしい君に触れることができた。
君のこの色味が深く、癖のある愛らしい髪。
触ると、とても肌触りが良くて気持ちが良くて大好きだった。
僕を真っ直ぐに見てくれる、燃えるように赤いその瞳。
とても綺麗で、いつもその瞳だけを見つめていたかった。
華奢で小さいのに、いつも僕のことを心から大切に思ってくれていたね。
何度君に救われたか数えきれないよ。エステレラ。
…愛してる。ずっと愛してた。
そして、これからも愛してる。」
…深い薄紫色の瞳で、私の顔を覗き込むローアル。
一つ一つの言葉が、心の中に降り積もる。
まるで雪のよう。溶けて弾け、最後に染み渡る。
…だれの?
誰に向けてそう話しているの?ローアル。
本当にその人のことを愛していたのね。
けれどそれは私じゃないわ、ローアル。
だって私は貴方を全然覚えていないんだもの。
ひどい話でしょう?
「離れて…」
ここでローアルまで巻き込むわけにいかない。
何とか体を動かし、ローアルの腕から逃れようと足掻く。
強いエネルギーを放っている私の身体を抱いていれば、ローアルだって相当熱いはずだ。
「嫌だ。離さない。…そばにいる。」
「駄目よ…わがまま言わないで。…子供みたいだわ、ローアル。」
「わがままだと言うなら、それは僕から去ろうとするエステレラの方だ。」
…何てことだ。
この状況で、エステレラ呼びするのは構わない。
けれど魔力暴走に巻き込まれて死んでしまうかもしれない貴方を気遣っているのに、まさかわがまま扱いされるなんて。
…どうして?
どうして私は前世を思い出さないのだろう?
こんなに私を愛していると、死にそうな目に合っても私を離そうとしないこの人を、何で忘れてるんだろうか?
「…っうっ……!!!」
「エステレラ?!」
激しい頭痛で頭が割れそうだ。
これまで体験したこともないような酷い痛み。
頭を重い鈍器で殴打されているような。
耐え難い痛み。
そこで放心状態になっていたディーが、長い間考え抜いた答えを吐露するように口を開いた。
「…エステレラは、忘れたかったんだろう。
あんなに悲惨な前世を。
…お前や、わたしに壊された過去を。
だから思い出さない。
思い出そうとすればその頭痛が襲うんだ。
お前やわたしを忘れて、幸せな現世を生きようとしたんだ…」




