現世編/魔力暴走①
『…いいですか?エステレラ様。
魔力持ちの人間が万が一『魔力暴走』を起こした場合、それは死に直結します。
想像してみて下さい。自身をエネルギーとして燃やし尽くす太陽のことを。
魔力暴走が起きれば自分の命をエネルギーとし激しく燃やし、周囲を巻き込みやがて消滅するでしょう。
だから、魔力暴走を起こさないためのコントロールは非常に重要なのです………』
…ディーに習った魔術の講義を私は思い出していた。
穏やかな昼下がりの塔の中。
いつものように机に書物を広げ、ディーが懸命に説明をしている。
『…ディー、私の魔力はあまりにも強すぎて、コントロールがまだまだ未熟よね。
練習してはいるけれど…もしそんな状態で『魔力暴走』が起きたら…』
私は持っていた羽つきの筆を掲げながら、目の前のディーに淡々と告げた。
『その時は私から離れてね。』
…そうか————これ魔力暴走なのね…
それなら…
「…は、なれ、て。
私か、ら離れるのよ、ディー…」
身体の内側が根こそぎ焼き付くような熱量を感じる。私は震える手でディーの身体を押し退けようとした。
けれどディーの身体は微動だに動かない。
…泣かないで。
泣かないでよ、ディー…
貴方を巻き込むわけにはいかないのよ。
そんな顔させてごめんね。
…そんなに私のことを愛してくれていたの?
そんなに私のことを想ってくれているのに、貴方のことを何一つ思い出さないなんて、私は薄情者ね。
「…はな、れてッ。」
このままだとディーごと巻き込んで、私は消滅してしまうだろう。
何としてもディーから離れなければ。
「イヤだ、エステレラ…こんな時に魔力が戻らないなんて自分を呪いたくなる…!」
「…っ。…………いいから、私から離れるのよ、ディー!」
身体中が炎に包まれているように熱い。さらに激しい頭痛までもが断続して襲う。
身体も頭も引きちぎれて、バラバラになってしまいそう…!
私が叫ぶと同時にディーは、放心状態で私の身体を解放した。
本当は泣き叫ぶくらい苦しいが、それ以上に苦しむディーの顔は見たくない。
「…それでいいのよ、ディー。」
安心させるように私が笑うと、ディーは対照的に焦燥的な表情で美しい両目から涙を流した。
「…何でまたお前を守ることができないんだ。大切で、こんなに愛してるのに…」
愛————————————
ディー、お前の深い愛はとても心地が良いわ。
まるでもうずっと長いこと、私の側にお前が寄り添ってくれていたように感じるの。
けれど…私はもう知ってしまった。
人を愛してしまった。
この身体は消えてしまうかもしれないけれど…
最後に、ローアルに会いたかった。
それしか浮かばなかった。
私、ローアルを………
人を愛するとは、きっとこういうことを言うのでしょう?
「…やっぱり思い出さないのは、わたしに対する罰なんだろう…?
だから記憶がない…
忘れたかったのか?わたしを…
忘れたいと…わたしのこともローアルのことも忘れたいと願ったのか…?エステレラ……」
…忘れたい?
違う。———違う?
とにかく今はディーからもっと離れなければいけない。
私は燃えるように熱い身体を引き摺り、一歩また一歩と白銀の雪の中を歩いた。
激しく燃え盛るオーラに包まれ、周辺を赤く染め上げていく。
かなり危険な状況だった。
近くには「グレイシャル」が倒れている。
が、まだ死んではいないようだ。
…レールタの皇女として生まれて17年。
優しいお父様とお母様、たくさんの臣下や騎士や兵やメイドたち、それから私を好きだと言ってくれる国民たちに愛された日々。
私、幸せだったな……
これ以上欲張ったらもう………
「また僕の前からいなくなるなんて許さないよ。エステレラ—————————。」
綺麗な白銀の世界にも引けを取らない、銀色の髪。
夜空に現れるオーロラよりも美しい、薄紫色の瞳。
…垂れた眉毛が愛らしい。
ようやくディーから離れたこの身体を、まるで一緒に死んでも離さないというように抱きしめたのは……………ローアルだった。




