現世編/騎士の誇り
◇◇◇
「…っはあ!はあ!はあ!」
さすがは6千とも言われる魔獣の数だ。
クルラーナ山脈に差し掛かる手前の村で群れを発見し、引き連れてからは、切っても切っても魔獣が溢れるように襲ってくる。
しかしそこまで体力を奪われてないのは、最前線で闘う皇帝アウトリタの凄まじい魔力が広範囲で騎士団全員の体力を強化させているからだ。
赤く輝くその魔力は、総勢200人いる第1騎士団に加護を与えてもいる。
あれが本来のアウトリタの魔力だったのかと、ローアルはその凄さに息を飲んだ。
元々精鋭として選び抜かれた騎士団の強化と、加護のおかげで魔獣を次々に討伐できた。
また、皇室魔術師の後方支援の攻撃で次々と魔獣が消えていった。
「消滅」と「攻撃」の徹底した2種類の魔術を使うように指示したのは皇帝だ。
それにより、数こそ向こうが多いが決して不利ではない。
第2、第3騎士団はその倍以上の人数で動き、討ち洩れた魔獣を討伐している。
そのうち群れを挟み撃ちにし、一網打尽にする予定だ。
———こうして戦う間にも、ローアルにはどうしても気がかりなことがあった。
それはエステレラが、あのディーと異界の大穴を塞ぐために行動を共にしていることだ。
こんな危険な場所にエステレラを連れてくること自体が不安で堪らなかった。
それに、あの男とエステレラが一緒に居るということが耐えられなかった。
クルラーナ山脈の頭上はどんよりと黒く染まっていたし、昨夜一晩2人がどんな風に過ごしていたのかが、気になって仕方なかった。
…もしもエステレラに触ったりしていたら許さない、そう思った。
「…ローアル、どうした!?手が止まっているぞ!」
「ヴォールク。」
「何だ、もう疲れたのか?」
「ラフィキ。」
戦いとは別のことに気を取られていたローアルに、両隣で戦っていた騎士団の仲間が、息を切らしながらも気遣うように話しかけてくる。
目の前にいる魔獣を卓越した剣捌きで切り裂き続けているため、ドス黒い血で皇室騎士団の制服は染まっていた。
しかし、それでも仲間たちは誇りある戦いに、恍惚と輝いていた。
雪崩のように押し寄せる魔獣の群れと戦いながら、レールタ帝国の皇室騎士団としての気高い信念を思わせる。
国を守るために染められた剣なら、誰もが本望だと、疲れを隠してまで笑う。
これがエステレラの言った、皇室騎士団として使う剣の本来の目的なのだと、ローアルもその喜びを感じていた。
…おかしいと、ローアルは疑問に思った。
亡国トルメンタの騎士団にいた前世では、誇りなんてものは微塵も感じなかった。
ただエステレラと一緒になりたい、その一心でしがみ付いていただけのように思う。
けれど今は違う。
共に国の為に戦う仲間がいて、守りたい人たちがいる。
そのために振るう剣がある。
…これこそが前世で、ローアルが求めていた皇室騎士団の姿なのだろう。
「ほら、ちゃっちゃと済ませて迎えに行くんだろう?」
「そうだぞ、お前の大好きなエステレラ様が待ってるからな!」
顔や体に擦り傷を作っておきながら、2人は余裕だという風に笑い、再び魔獣との戦いに身を投じていった。今では仲間たちが当然のように頼もしく思える。
「…当たり前だ。
彼女と1秒でも早く会う為なら、魔獣を一匹残らず討伐してみせるさ。」
…早くこの戦いを終わらせてエステレラを迎えに行く。
そんな強い想いと、熱い誇りを胸に、ローアルはまた剣を頭上高くに振り上げた。




