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現世編/雪山の一夜①



 「…贖罪、なんです。」


 ディーの表情が、物悲しそうに崩れた。


 炎が揺れる。

 皇室魔術師の黒い衣装を纏い、長い銀色の束ねた髪が、今ばかりは赤く染まっていた。


 「…ディー。あなたも『前世の記憶を持つ共通者』…なの?」


 その問いにディーは僅かにピクリと肩を動かした。


 「…どうしてそうお思いで?」


 「謁見室で、エスピーナがあなたの事を知り合いだったかのように叫んだことがあったでしょう?あの時…」


 あの時ディーから感じたのは、エスピーナに向かい剣を振り上げたローアルにも感じた、激情。


 あなたもローアルと同様、亡くなったエスピーナを憎んでいたのでは?と。


 盲目のディーの両目は硬く閉ざされたまま。

 ふと、その目が見開いた時、瞳はどんな色をしているのだろうかと考えた。


 「…この間、塔で私があなたに愛していると言ったことは覚えていますか?

 愛を証明するためにはどうすればいいかと。

 …考えてくれましたか?」


 ぱちくりと目を見開き、私はディーの問いに硬直した。


 すっかり忘れていた。


 両手の指を絡ませてもじもじと気まずそうに沈黙していると、それを分かっているのかディーが苦笑いする。


 「…忘れていたんでしょう。

 けれど今思い出せたのなら、また考え直せますね。」


 そう言ってディーはまた、男性とは思えないほど美しい笑顔で微笑んだ。

 

 それを見て何故か、罪悪感を抱いてしまう。

 そう…もう私の心の中には、どうしてもローアルが居座っている。


 「…あのね、ディー。

 こう言っては、お前を傷つけることになるかもしれないけれど…

 もしかすると私はローアルを好きに…」



 なりかけている———もしくはなっているかも知れない。

 そう言いかけた口が、ディーの手によって塞がれてしまった。


 いつの間にこんな近距離に…?


 それよりも、力強い手で私の口を塞いだディーの様子がおかしい。

 そもそもの体格差のせいもある。私をすっぽり覆うように体が傾いている。


 その表情には、何故か怒りが垣間見えた。



 「…なぜ、またあの男なんです?

 …なぜ…………………!!!」



 心から私を責めるような叫び。



 いつもの冷静なディーとは全く違っていて、怖いと感じた。

 しかもあの礼拝堂で見せたローアルの寂しげな顔にも近くて、思わず胸が詰まる。


 前世で私たちは、一体どんな風に関わっていたというのだろう?


 なぜ…貴方たちに、こんな風に追い詰めるような顔をさせているのだろう。


 前世の私は一体何をしていたの…?


 どうして私には何一つ、記憶がないの?


 悲し気に私に縋りつくディーを見ていると、記憶を持たないことが何故だか申し訳なく思えた。


 そうしているうちに、まるで記憶を拒絶するかのように、例の頭痛が襲ってくるのだった。



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