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現世編/帝国の危機③


 ——————


 それから程なくしてお父様は自室にディーを呼んだ。


 そこには、第1騎士団の団長ステルクと、皇女として国に尽くす義務がある私もいた。



 お父様はレールタ帝国を中心とした世界の地図を広げて、そこにあるクルラーナ山脈の麓を指差し、ディーに向けて言った。


 「山脈の麓に岩盤を砕いたような大穴があるらしい。斥候によれば魔獣はその穴から湧いていたと言っていた。

 わたしはそこが、魔獣を生み出す異界への通り道だと思う。

 そこを塞がなければ魔獣は溢れ続けるし、塞げば魔獣は現れないということだ。

 …その穴を塞ぐことをお前に命じたい。

 その間に魔獣どもの群れを、わたしと第1から第3騎士団、それに皇室魔術師たちで引きつけて時間を稼ぐ…

 どうだ?できそうか?ディーよ。」


 「…はい。陛下の命ならば、この命に変えても全うしましょう。」


 沈着冷静なディーは狼狽えることもなく、丁寧な礼をする。

 耳から滑り落ちた銀色の髪を静かにすくい上げた。


 「…すまないな。お前が盲目であると分かっているのに、過酷な任務を任せてしまう。」


 「…ならばお父様!私をディーと同行させて下さい!」


 鎮まり返ろうとした室内で私は立ち上がり、お父様に向かってそう叫んだ。


 「…何?

 だ、駄目だエステレラ!そんな危険な場所に行くのは許可できない!女、子供が身を隠すように、お前も城の安全な場所に…」


 「そんなこと言ってる場合ですかお父様!

 今この国は危機に晒されているんですよ!

 国の皇女が、騎士団や魔術師たちが懸命に戦っているのに安全な城に身を隠してどうするのです?

 それに私には、お父様から受け継いだ魔力があります!

 こんな時こそ使わねば、いつ使うと言うのですか!」


 この国で大勢の国民の命を奪ってきたのは、戦争ではなく魔獣だ。

 

 魔獣の討伐には魔力を使う魔術師が1人でも多く必要だ。

 そんな時に魔力を持ちながら隠れてやり過ごそうなんて、私には考えられない。


 それにお父様が下した命令は、盲目のディーには危険そのものだ。

 魔術で彼を守るという、誰かの支援が絶対必要な筈だ。


 私は意見を譲らないと言った目をするが、お父様は頑なに首を横に振る。

 その張り詰めた空気に口を開いたのは、ディーだった。


 「…皇女様。

 …陛下。皇女様は確かに強い魔力を持っています。

 わたしが穴を塞いでいる間、後方支援に回って頂ければ、これほど心強いことはありません。

 それに、わたしの教えに従っているので、魔力のコントロールも格段と上手くなっています。

 はっきり言って、皇室の魔術師と比べることができぬほどエステレラ様はお強いです。

 今はとにかく1人でも、多くの戦力が欲しい所です。

 …お約束しましょう。

 もしもの時、エステレラ様はわたしが、この命に変えても必ず守りするということを。」


 「…そうか。分かった。…ディー。エステレラをどうか頼む。」


 ついに、ディーに私を一任する言葉をお父様は発した。

 でもその表情は晴れる事はなかった。

 お父様が娘を心配するその気持ちは良く分かってる……

 けれど私も決意を覆すことはなかった。


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