現世編/帝国の危機②
ローアルと話をした翌日、酷い悪夢にうなされて目を覚ました。
いつもの頭痛と悪寒に苛まれたため、ベッドの引き出しから薬を取り出して、用意されているお冷をグラスに移して飲んだ。
「…はあ…。」
即効性のある薬を開発しているのはお父様の、信頼のおける薬学師だ。
レールタ帝国での医術は他国と比べてだいぶ進んでいる。
それも国民を疫病や魔獣の被害から少しでも多く救うための政策の一環でもある。
しかし、私の頭痛は少し特殊らしい。
頭痛となっている根本的な原因が不明瞭であるためだ。
だが、痛みの回路は共通らしく、頭痛薬さえ飲めばそれを抑えることはできた。
「皇女様。お目覚めになられましたか?」
扉の外で待機していたメイドの声が聞こえる。
「ええ。起きたわ。」
今朝のよく覚えてもいない悪夢を払拭させるように、私は明るい声でそう答えた。
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その頃、帝国では国境付近に現れた魔獣によって多数の国民の死者が出ているとの緊急の報告を受けていた。
そこは帝都より南下したクルラーナ山脈に位置する。
アウトリタはその報告を受けてすぐに皇室の騎士団数名と魔術師を斥候に行かせ、近況を探るようにと指示した。
その斥候が帰ってきたのだ。
「陛下、申し上げます!魔獣の群れはクルラーナ山脈から程近い山村や街で人を襲い、さらにそれらは、この帝都に向かっていると思われます!
その数はおよそ6千匹!!
これらの数は帝国史上例を見ないほど過去最多です…!」
アウトリタの前に膝をついた騎士団員と、魔術師たちの切羽詰まった報告が続く。
「申し上げます…!
その数の魔獣を率いているのは「グレイシャル」という大型の魔獣です!
この魔獣は体が強靭に固いため刃を通しにくく、また水のような液体にもすり替わるため、攻撃範囲が絞れず、現存の魔術師たちでは、簡単に捕らえることができません…!」
玉座の間にいる高官や兵たちが騒ついた。
その中でも取り乱す事なく冷静さを保っているアウトリタは、素早く頭の中を整理して立ち上がる。
マントを翻し、同時に片手を振り下ろして、力強く宣言した。
「聞いた通り、この国にとって最大の災害でもある魔獣がこの帝都に向かっている。
このレールタにいる愛する者たちや、国民たちを守るためには、それらと全力で戦わなければならない。
皇室第1、第2、第3騎士団にはこれより、魔獣討伐の命を下す!
各団長の指揮の元、それぞれ魔術師を各人数連れ、これからクルラーナ山脈に出兵せよ!
皆、何も恐れることはない!
何故ならこの国で最強の魔力を誇る私と、それに同等の力を持つディー・アブーグルも参戦するからだ!
皆私を信じて、着いてこい!」
アウトリタの気迫ある声に士気が上がった騎士や兵たちは立ち上がり、拳を掲げ一斉に叫び声を上げた。
「アウトリタ皇帝陛下万歳!」
「レールタ帝国に勝利を!!」
騎士団や臣下たちが魔獣討伐の準備のため慌ただしく席を離れると、トリステルは心配そうにアウトリタを見つめた。
「あなた…」
「…心配いらない。
止めなければ君も、この国の国民も危険だ。
大丈夫。必ず君の元に帰るよ」
「あなたが強いことは知ってます。
けれど妻として心配させて。
無事に帰るよう心から祈っているわ。」
「愛してるよ、トリステル。」
いつも全力で妻に激甘なアウトリタは、そう言ってトリステルの額にキスをした。




