現世編/とある騎士の復讐①
———ドアはフォンセが立ち塞がっていた。
狭い空間を必死に逃げ惑うエスピーナに、フォンセは容赦なくナイフを振り下ろし続ける。
「あははははっ…!!
エスピーナ様、必死だな!まるでハムになる前に逃げ惑う家畜みたいだ…!」
馬車は上下左右に激しく揺れた。
「イヤだぁぁっ!!…誰か助け…うぐっッ…ガッ、おと、お父さま…ディー…ろ、ローアル、ろぉあるうう!!わたくしを助けて、たすけてよぉぉ……!!」
突然の襲撃に御者がいなくなったせいで、馬車の揺れに興奮し始めた馬がやがて勢い良く走り始める。
「…!うごいてる、動いているわ!!馬車が勝手に動いてるの!フォンセ…!」
そのうち人道を外れて獣道に入った馬車は、スピードをグングンと上げ続けた。
もはや人間に普通に止められるような状態ではない。
揺れる車内でエスピーナは身体中から血を流した。
それに気を取られる余裕もなく、座席に座り壁際に必死にしがみつく。
しかしフォンセは大きな身体と両足を支えにして、揺れにも動じず、平然とエスピーナを見下ろしていた。
「あははははっ!!怖いんですか?皇女様!!
俺と一緒に楽しみましょうよ!!」
この馬車がどこへ向かっているのか、死の恐怖がより興奮すると、フォンセは妙な高笑いをする。
フォンセは前世で自分を殺したエスピーナに復讐ができるこの瞬間こそが、最高の幸福だと感じていた。
やがて馬車は獣道から開けた場所に出たが、その先にあるのは道のない小高い崖だった。
車内の窓から前方に見えるのは、制御する者もない馬が、そのまま崖に向かって突進していく光景。
「イヤ…イヤ!!!死にたぐない、死にたぐないよ、ヤダ、イヤァァ、助けて、誰か…
わたしくしはエスピーナよ、高貴な皇女…
誰からも愛されるべき存…」




