現世編/とある騎士の復讐①
恐怖で怯えるエスピーナの顔は、もはや原型の美しい顔を留めておけないほどだった。
「…嬉しいな。そんな風に恐怖に満ちた顔をして頂けるなんて。
ご自分が前世で犯した罪をきちんと覚えていてくれた証ですね?
それにしても、俺もあんたも…汚いなりですね。平民以下に生まれ変わったんですか?
前世でたくさん罪もない人を殺したせいですね。
なんともお似合いの2人だ。
そう…思いません?
…愛していますよ、エスピーナ様。」
薄汚れたフォンセの唇が、青ざめるエスピーナの唇を塞ぐ。
「グゥッ!」
魔石の錠で束ねられた両手を使い、咄嗟にフォンセを押し返したエスピーナは、泣きながら嘆願を始めた。
「ゆる…許してフォンセ、わたくしも…そう、わたくしもお前を愛していた…
いや、愛しているわ、だから2人でこのままどこか遠くへ…」
過去に犯した罪から、エスピーナはフォンセが自分を殺しに来たのだと理解していた。
何とか生存するための言い訳を、ずる賢い前世の生と同じように必死で考えた。
だけど無慈悲に、一回、二回とナイフが振り下ろされた。
小さく斬り付けられた掌や腕の腹から、血が噴き出していく。
「イヤ……イヤだ、やめて、フォンセ…!!
わたくしは、今世では貴方を殺してない、
そうでしょう?
それにわたくしは最近まで記憶がなかったのよ!信じて!
わたくしは今世では誰も殺してな…」
「関係ないんだよ、そんなの。
あんたがエスピーナかそうじゃないか、重要なのはそれだけさ。」
生まれ変わったフォンセは、こうやってずっとエスピーナに巡り会うのを願っていた。
気味の悪い顔で、エスピーナを嬉しそうに斬りつける。
「エスピーナ・タエヴァス・トルメンタ。
亡国トルメンタ帝国の皇女だった女。
あんたを崇拝し、あんたのためならどんな汚いこともやった。
この手をたくさんの血で染めた。
皇帝弑逆の罪を俺だけに着せて、俺を処刑させた女。
今でも首を切られる夢を見る。
こんな奇跡があっていいのだろうか…?
生まれ変わってまで、皇女に復讐できるなんて…!!!」
怯えるエスピーナを見ながら、フォンセはベラベラと下品な口調で喋り続けた。
「楽しいよ、皇女様。
何でこんなつまらない二度目の人生を生きなければならないんだと思ってきましたが…
俺はこの日のために再び生まれ変わったんですね?」
皇女に利用されて無惨に死んだフォンセは、前世の誇り高さは露ほども持ち合わせておらず、ひたすら狂気に満ちた瞳をしていた。
獲物をいたぶるように。
エスピーナを長く痛めつけるように、浅くナイフを振り下ろして、傷をつけていく。
「イヤ…イヤだ、死に、死にたぐないッ…イヤ!イヤだあぁぁ!
わたくしは、エスピーナじゃない…わたくしは今世ではまだ誰も殺してないのにぃぃ…」
鈍い音が響き、馬車の中いっぱいに鮮血が飛び散っていった。




