現世編/忘れ去られた皇女②
どういう状況なのだろう?
混乱する私や兵をよそに、先にローアルが沈黙を破った。
「…正直言って、その顔は見たくなかった。
二度と、会いたくなかった。
…だって、会えば殺したくなるから。」
「……………………えっ?」
ローアルの言葉に、嬉しそうだったエスピーナの表情が次第に崩れていく。
良く分からないが、私は宥める様にローアルの肩に触れた。
「ローアル…?
ありがとう、もう私は大丈夫だから…」
「……だめなんです。皇女様。
この女は、殺さなければ。」
「…え?」
「———またそうやって、君は。
どこまでいっても君は魂の髄まで悪女。
救いようのない悪だ。
またこうして傷つけるつもりなら…」
冷たい瞳をして、ローアルは剣のグリップ部分を強く握りしめた。
「な、何するのよ?ローアル?
わ、わたくしたち、前世では夫婦だったでしょう?
あんなに愛し合ったでしょう…?
まさかそんな、わたくしを殺そうだなんて、ねえ?悪い冗談で…」
標的を逃さないためか、ローアルは間合いを少しずつ詰めていく。
完全に、冷静さを失っている。
脅えるエスピーナへとローアルが踏み込んだ瞬間、私は大声で叫んだ。
「駄目よローアル!!
殺しては駄目………お願い…!!!」
あと僅かでも遅ければ、エスピーナの頭上にローアルの剣が振り下ろされる所だった。
しかしローアルは私の声に反応してその手を止めた。
「あ……」
エスピーナは泣きながら脱力し、その場にへたり込んだ。
私はまだ剣を下ろさずにいたローアルの震えた手を掴み、一緒にそれをゆっくりと下ろす。
「ローアル。
あなた達の間に、一体どんな因縁があるかは知らない。
けれど、この帝国の誇り高き騎士団の剣は、感情的に人を斬って血で染めるためにあるのではないわ。
この国の全ての人を守るための剣よ。
…あなたのその大切な手を、恨む誰かの血で染めては駄目よ、ローアル。」
カランと剣が床に滑り落ちた。
ローアルが冷静になったのを見て、私はすかさず兵達に命令した。
「さあ、エスピーナを拘束して!
剣を遠ざけて、速やかに牢に連行するのよ。
少女だからと言って、二度と油断してはいけないわ!」
それまでを呆然と傍観していた兵達は、ようやく我に返って動き始めた。
今しがた死んでいたかもしれない恐怖心を颯爽と払い、皇女として毅然とした態度を取る。
私は皇女だ。こんな時に素早く判断を下すのも私の仕事。




