現世編/忘れ去られた皇女②
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兵に連れられ、エスピーナはブツブツと譫言を繰り返す。
「…なぜよ。なぜ。
わたくしこそが尊いのよ。
何でお父様はわたくしを忘れてしまったの…?まさかディーまで…」
皇室地下通路階段。
牢に連行される間、一人だけでも女性がいなければ不便だろうと皇女である私も同行することにした。
見張る…とでも言うべきか。
底知れない少女の、怨念のようなものを感じていたからだ。
もし本当にこの少女が言うように前世があったとしても、今目の前にある事実の方が大切だ。
私はこの帝国を愛している。
皇帝であるお父様と皇后のお母様、そして国を支えている臣下やメイドたち、騎士団や、ディーや国民…
それと勿論、騎士としてこの国に忠義を尽くすローアルのことも大切にしている。
それを脅かそうとする者から、皆を守る義務が、私にもあるのだ。
両手を拘束され、ブツブツと狂ったように何かを呟き続けるエスピーナと、その両脇にいる兵たちの少し後ろを歩く。
牢までの地下通路は、敵に簡単に侵入されないために少し複雑な造りになっていた。
…天井の露が静かに通路に滴り落ちている。
もう一段階下らなければならない、広い螺旋階段に差し掛かった。
「…るせない…許せない。
結局…は…わたくしを一度も愛してくれなかった…そして、お父さまも…ディーまで…
エステレラ…お前ばかり…
生まれ変わってまで…
なぜお前だけが………!!」
突然大声を上げて振り返ったエスピーナは、2人の兵の腕を思い切り振り払った。
それに驚いた兵の剣を鞘から引き抜くと、両手を縛る縄を切った。
剣を手に、エスピーナは猛然とこちらに向かって走ってきた。
「エステレラ様…………!!」
「…ッ!!」
…この眼。本気だ…!!
「…!!!」
とっさに加護魔法の陣を展開しようとするも、間に合わない……
駄目だ、斬られる……!!
…キィィイン!!という甲高い音がした。
剣と剣がぶつかり合う音。それが地下室に響き渡った。
一方の剣が跳ね返されて、石床から階段下に滑り落ちる。
まるで銀糸のような髪が揺れた。
———なぜ、…ここに?
「………もう二度と、君を傷つける様な真似はさせない。」
私の前に飛び出したのはローアルだった。
全身で、私の盾になるように前に立ち塞がり、向かって来たエスピーナの剣を勢いよく弾き飛ばしたのだ。
「…いッ…!!!」
思い切り剣の反動を受けたエスピーナは、短く呻いた。
しかしローアルを見た瞬間、怒りの表情が嘘のように緩んだ。
「うそ…ローアル…?
まさか貴方もこの世界に…?
わたくしのために…?
わたくしに会いに来てくれたのね…!?」
彼に向かい、エスピーナは瞳を潤ませて嬉しそうに叫ぶ。
だけど後ろ姿のローアルは沈黙し…その手は、震えていた。
誰も理解が追いつかずに、静まり返る。




