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現世編/忘れ去られた皇女①


 だからこの少女、エスピーナが語ることは、お父様を侮辱することと同じことだった。

 侮辱罪に皇族身分詐称罪に該当する。


 お父様は厳しい表情をして、エスピーナの返事を待った。


 「…前世です…!前世なんです陛下…!

 わたくしは前世で陛下の娘でした!

 今は亡きトルメンタ帝国の皇女で、後に即位した女皇帝だったのです…!」


 「はっ…!」


 珍しくお父様が冷たい視線を向けて、不快そうに笑った。


 「…前世だと?

 …しかもあの亡きトルメンタ帝国の?

 愛人である男に溺れて傾国させ、今のように魔獣が溢れる世界を作った元凶と言われているあの女皇帝の…?

 国民に恨まれすぎて、名前すら抹消された女皇帝か…。笑える話だな。」


 「…信じてください…!

 わたくしは…下民なんかで一生を終わらすような女ではありませんわ!

 高貴で気高く、誰よりも尊いのです!

 皇女だったのですよ!あなたの愛する娘だったのです!」


 エスピーナはそう必死に訴えるがお父様は呆れたように溜息を吐く。


 「誰かこの者を地下牢に入れておけ。害がないと分かれば、解放してやろう。」


 指示された数名の兵がエスピーナを取り押さえた。

 それに対しエスピーナは「わたくしに触るとは無礼な!下賎な者ども!」と悪態をついた。


 「信じて下さい…!

 そう、そうよ、ディー!!お前はディー・ハザック・ストレーガよね!?

 …お前ならわたくしのことが分かるはず…

 ねえ、ディー!お前はわたくしが陛下の娘だったと知っているわよね?!」


 エスピーナはディーを見るなり、訳の分からないことを喚いた。


 …ディー?


 隣にいるから分かる。


 ディーの拳は、強く握り締められていた。

 そこから感じ取れるのは、怒りだ。


 「………さあ。わたしには何のお話かさっぱり分かりませんが。」


 しん、と沈黙した謁見室。


 眉ひとつ動かさず冷たく言い放ったディーの言葉に、エスピーナは愕然とした。


 「嘘よ…お前まで記憶がないというの…?

 なら、覚えているのはわたくしだけ?

 なんてことなの…!

 それに…お前はエステレラ…

 何で…

 何であんたが皇女なわけ?

 どきなさいよ、そこにいるべきはわたくしよ?

 わたくしこそが真の皇女なのよ…!!」


 …この少女は何を言っているの?前世?

 そんなものがもしあるとしても。

 

 エスピーナは美しい金糸のような髪を振り乱し、恐ろしい目で私を睨みつける。

 だが私は一歩前に立ち進み、言った。


 「もしあなたの言う前世があるとしても、今の私は間違いなくレールタ帝国・アウトリタ皇帝陛下の娘、エステレラ・ピアセ・レールタであり、この国の正統な第一皇女だわ。」


 どんな時でも、皇女たるもの毅然な態度でいなければならない。

 そういった信念が私を力強く押し出した。


 私の大切な家族を揺るがすものには、例え何であろうと屈服してはいけない。

 強い意志のもと、エスピーナに警告する。


 「私の娘を愚弄すれば牢屋に連れて行くだけでは済まされないぞ。」


 「陛下…まあ、まあ、落ち着いて。」


 アウトリタの殺気に満ちた低い声が介入し、お母様は再び剣を抜いたお父様を宥めるのだった。


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