現世編/二人からの求愛③
「…エステレラ様!こちらのクレープで良かったですか?」
満面の笑みで、ローアルが手に何やら美味しそうなお菓子を持って駆け寄ってきた。
冬の晴れの日。
皇都から外れた観光地、スヴェイダーニーの街中で、私はローアルとデートしていた。
なんと、お父様から(夕方6時に必帰宅の制限付き)デートの許可が降りたのである。
このデートのために、観光地のとある遊地を貸切りにしてある。
でも半径3キロ以内には皇室騎士団の精鋭たちがざっと20人ほど待機している(ちょっと過剰な人数の護衛です、お父さま)。
自分から厳しい条件を出しておいて、それを難なくクリアしたローアルとの約束を反故にはできず、涙ながらにデートの許可をしたお父様。
なのでこれはかなりの妥協案だったと思う。
それにしても、デートと意識するせいか何故か緊張するわ。
ローアルはいつもの皇室騎士団の服ではなく、光沢感のある白シャツに黒の長ズボンにブーツという格好をしている。
腰には騎士団の剣ではなく、あまり目立たない短剣が収まっている。
いつもなら無造作にしている銀糸の髪は束ねられて、どこか品のある皇子のようだった。
「エステレラ様?大丈夫ですか、どこか体調が悪いのでは…」
はっ。いけないわ。ついローアルに見惚れてしまった。
「だ、大丈夫よ、ローアル。
それよりその、……くれぃぷ?という物は何かしら?」
「あ、これは卵のお菓子です。
中にはたっぷりの生クリームと、苺や葡萄などの果実が入っているんですよ。
…毒味はすでに済ませましたので、ぜひ食べてみてください。」
毒味って…
確かに二つとも僅かにかじってあるわね。
ローアルは、にこやかな表情で私にくれいぷを差し出した。
…い、いいのかしら?
ローアルが齧った部分に触れるとなると、間接キスのようなものだけれど?
何だかドキドキして、くれいぷを握る手が震えてしまった。
「…美味しい…!」
「でしょう?
……エステレラ様は絶対好きだと思ってましたよ。」
銀色の前髪が陽の光に透けて揺れる。
日差しを背に受けながら、ローアルは私を見て嬉しそうに笑う。
なんて素敵な笑顔で笑うのかしら。
まるでお日様のような笑顔だわ。
それから二人で街中で行われている技芸団の踊りを見たり、露店に並べられているアクセサリーを見たり、レストランで美味しいランチを食べたりした。
公務以外で遊地を訪れたのは幼い頃だけだったから、内心楽しくて仕方なかったのも事実だ。
———歩き疲れた私たちは冬樹が並んだ街道にある、お洒落なカフェのオープンテラスでお茶をしていた。
「…エステレ様。もし宜しければお手を拝借してもいいですか?」
ふいに、ローアルがそう尋ねる。
許可するわと言うと彼は嬉しそうに小箱を取り出し、テーブルの上でそれを開けた。
私の掌に乗せられたのは、琥珀色した石のついた髪飾りだった。




