現世編/二人からの求愛②
午後から皇室政務官と財政の厳しい地方開拓のいくつかの案を協議し、多用で忙しいお父様の代わりに事務処理である書類を片付けた後、私はディーの個人指導を受けていた。
「皇女様の魔力の色は赤なので、アウトリタ陛下の力には及ばないものの非常に強力です。
しかし、皇女様が魔術を使う際に魔力の操作を間違えば力は暴走し、周囲に大きな危険を及ぼすでしょう。
だからその力をご自分で操作できるようにしなければなりません。」
「なるほど。
だから力の満ち引きの訓練を、繰り返す必要があるのね。」
魔術の指導は万が一に備えて魔力防壁が備わっている安全な塔で行われる。
こうやってディーには個人的に魔術の知識を教わり、時に実践することもある。
「さて…今日はこの辺にしましょうか。
この後、陛下にお話があるのでしょう?」
魔術書を閉じたディーは、静かに銀色の前髪をかき上げた。
塔の小窓から差す陽の光に照らされたディーの髪や、透き通るような肌をつい無意識に見てしまうのは何故だろう。
目は見えなくてもその一つ一つの所作が洗練されたように美しいからだろうか?
私はふと、そんな彼に尋ねた。
「そう言えば最近、ディーの機嫌が悪いのは何でかしら?」
立ち上がり、魔術書を戸棚に戻す最中に私が声をかけたせいで、ディーの行動がピタッと止まってしまう。
それというのもそう尋ねたのは、ここ最近のディーは態度が少し変だったせいだ。
何かを考え込んだり、怒っているようにイライラしたり。
「…皇女様。
もし皇女様とわたしが、実は遠い昔に知り合いだったとしたら、どうされますか?」
机の上の教材を片付けている私の手の上に、真上から覆うように片手を重ね、ディーは言った。
「知り合い?私とディーが…?」
「…それも、わたしと皇女様が実は親しい間柄でしたら?…それなのに皇女様がすっかりそれを忘れていたとしたら…」
私を見おろすディーと、鼻先が触れそうなほど距離が近付いていた。
「…それは、ディーが可哀想だわ。
もしそれが本当なら、私は何としても記憶を取り戻そうとするでしょうね。」




