表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

112/161

現世編/あの男だけは

 ◇◇◇



 城の者が皆寝静まった頃、ディーは離宮の自室から一人で、エステレラのいる皇女宮を見上げていた。


 今でも…あの寒い夜のことを思い出す。


 心も体も壊れたエステレラが自分を殺してくれと泣いたあの日…



 『そんなクズな男のために…君は自分の命を捨てるのか?

 それでも彼の幸せを望むのか?』


 ディーは思わずエステレラにそう尋ねた。

 知りたかった。

 彼女が壊れて行くのを知りながらそれを止めないローアルを、それでも愛しているのかを。


 もう…エステレラから心臓を取り上げるなんて気は微塵もなかった。

 すでに彼女は体のあちこちを失い、体も内臓もボロボロだった。

 肉体的にも精神的にも、エステレラの余命はもう長くはなかった。


 だから安らかに逝かせるつもりだった。

 これ以上エステレラが傷つかないように。

 悲しむことがないように。


 エステレラを眠るように永眠させようとした。


 だが、ディーが術をかける前に。


 明らかに、亡きアウトリタ陛下の持っていたような、力強い魔力が放出された。


 あの魔力はエステレラ自身のもので間違いないだろう。


 彼女は死ぬ間際に…一体何を願い、自らの死と引き換えにしたんのだろうか?


 こんな風に同じ時代に生きた人間が、また同じ人間となって生まれ変わり、多少は違えど構成があまりに近いこの現状は、奇跡というには奇怪すぎる。


 ここはディーが願ったものと、エステレラが願ったものが折り重なった、奇跡の世界なのか。

 神やこの世の理を超えるほどの。


 冷たくなったエステレラを抱きしめた時にディーは、初めて自分が泣いていることを知った。


 愛を知らない人間だったから…


 そうなる前にエステレラを救う道を探せなかった、愚かな自分を呪った。


 ディーは『どうかエステレラが幸福であるように』と願った。



 輪廻転生を信じていたから、その魂がいつか救われて新しく生まれ変わった時、誰よりも幸せでいて欲しいと願った。


 …それは万物の神に挑む、高すぎる望みであり、術を完成するのに自らの命を対価にした。


 盲目で生まれたと気付いた時に、これも対価だと気付いた。


 そして…再び出会った。

 前世では見ることが出来なかったあの娘の、本当に幸せそうな声を聞いた。


 生まれ変わって側に居れば、それで満足だと思っていた。


 だけど、あの男もまた転生していた。

 ローアル。しかも記憶持ちだ。


 それに今世では堂々と愛を語り、エステレラに求婚までした。


 自分の地位と名誉のためにエステレラを見捨て、エスピーナと結婚した男。


 あんなクズ男にエステレラは渡せない。


 何としてでも、エステレラをあいつから守る必要がある。

 ディーは月を見上げて、唇を強く結んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ