現世編/プロポーズは突然に②
◇
「どうしたんです?皇女様。
まるで幽霊でもご覧になったような荒々しい息遣いをされて…」
「い、いいの、気にしないで、ディー。」
何も幽霊を見たわけではない。
観戦席に戻った私に心配そうにディーが声をかけてくれたが、平静を装うことにしてそのまま席に座り込んだ。
…うん。
…それでつまり、どういうこと?
先程のあの少年を、私はどうすれば良かったというの…?
先程の皇居、中庭の噴水の前。
全く見知らぬ美少年に突然に愛していると囁かれて…あの後。
仕方なしに会場まで連れ添う間、後ろを歩く彼はことごとく、歯が浮くようなセリフを吐き続けた。
恋愛上級者のお父様も真っ青になるくらいの。
『お慕いしています。』
時には顔を赤くし。
『身が悶えるほど愛しているんです。』
振り向いてもいないのに、情熱的な視線を感じ。
『皇女様以外に結婚を考えられません。』
結婚!?
って私たち、出会ってまだ数分ですよね…?
『薔薇のように綺麗なその瞳が、死ぬほど大好きです。』
…そんな恥ずかしいこと、親にも言われたことないですよ?
『本当に頭の先からつま先まで、完璧で美しいですね。』
背後からそんなに見ているの…!??
『このまま貴方を攫ってしまいたいです。』
…キャアアアアアッ!!!怖いわ…!!!
私の記憶が正しければ、私たち会うのはあれが初めてよね?
まさかあれが世に言うストーカーという者でしょうか?
怖かったの、正直!!!
恐怖以外何を感じれば…?
かろうじて顔面だけは良すぎたのがまた…
あれは口説かれているの…?
それとも何かの陰謀…?
分からないわ…だって私、恋愛経験ゼロの残念な皇女ですもの…!?
———会場に歓声が沸き起こった。
各場所で一対一の対戦が始まったのだ。
ルールは簡単で、トーナメント形式。勝った者だけが次の試合に進んでいく。
そうして勝ち残った、上位15名までが自動的に今年の騎士団に入団することになるのだ。
レールタ国の皇室騎士団は第1から第3騎士団まであるが、今回はその最高位に位置する第1騎士団の選抜試合だ。
つまりそこまでに熾烈な試合から勝ち上がってきた者だけが、今日この場にいるという訳だ。
その中でも1位と2位になった者には、皇帝から特別に褒美が与えられることになっていた。
そう…今年は特に優秀な1位候補が大勢いた。
しかし圧倒的な大歓声が沸き起こった本当の原因は、華奢で少し(?)ストーカー気質の銀髪のあの少年が、期待されているわけでもなかったのに1位になった為である。
…つ、強い。
やっぱり先ほど見えた剣だこや筋肉は見間違いじゃない。
それに技術。受け身とも。まさに天才ね。
人は見かけによらないと言うけれど、本当ね。
これまでたくさんの優秀な騎士を見て来たけれど、ここまで洗練された剣術を見たのは初めてで、私も少し興奮していた。
それに気付いた少年が私に笑いかけ、口元を動かす。
『あ、い、し、て、い、ま、す』
———からの…恐怖!!!




