31.風神
前回のお話。
密ちゃんに案内され、敵の本拠地へ行く事になった。
トンネルみたいな風景だ。
だけど足元は無重力のような感覚だ。
「さぁさぁさぁ! 着きました!」
目の前にはプレハブがあった。
「お客様はこちらでお待ち下さい。ただいまお茶をお持ち致します」
「俺クッキーも!」
「かしこまりました、坊っちゃん!」
密ちゃんはいなくなった。
「お茶はここで用意できるけど、俺のクッキーは料理長にお願いしなきゃいけないから、しばらくこないよ」
颯は椅子に座って言った。
「あぁ、そう言う事! またクッキー食べたいだけかと思った」
「いや兄ちゃん、それもあるけど!」
「あるんかい」
「ストップ! あなた達の話なんてどうでもいいわ」
「きいに賛成」
「颯君! どうするの!?」
結衣は少し戸惑っていた。
「まずは密ちゃんを倒さないとダメかな」
「えっ! 密ちゃん倒すの!?」
俺は驚いて大声を出してしまった。
「麻陽、静かに。はい、チョコ」
「ごめん、ありがとう響」
俺はチョコを静かに口にした。
「最終的には俺よりボスの命令が一番だから、密ちゃんとは戦わなきゃいけない」
「お前それでいいのか?」
「……俺のお世話係だったけど、そもそもギーラなんだ」
「ギーラと人間が仲良くなる事は不可能なのかな?」
「結衣!?」
稀星は驚いていた。
「私もギーラは憎い。でも密ちゃんはいい人な気がする」
「密ちゃんを敵にまわすとどうなの?」
稀星は颯に聞いた。
「実は密ちゃんが能力を使用しているの、見たことないんだ」
「能力者なのは確かよね?」
稀星は言った。
「分からない」
「さっきの空間に穴あいたやつ、あれはなんなの?」
「あれは密ちゃんにしか使えない。だから能力だと思うんだけど……」
「はっきりしないわね! しっかりしなさいよ!」
「稀星、チョコどうぞ。颯と知星も」
「……」
「食べるとリラックスできるよ」
「響ありがとう」
「ありがとう」
「……サンキュー」
響のおかげで場が和んだ。
「どうせ戦うなら戦ってみたら?」
俺はなぜだかそう思った。
「麻陽!?」
結衣は驚いて声をあげた。
「悩むくらいなら、自分の気持ちを伝えてみたらいいよ。それでダメならまた悩んだらいいんじゃない?」
「あなた、そんな簡単な話じゃないでしょ」
稀星は少し呆れていた。
「……いや、俺話してみる」
「颯君……」
結衣は泣きそうな顔をしている。
「これが密ちゃんとの最後になるかもしれない。手は出さないでほしい」
「わかった」
「ふぅ………………」
颯は深いため息をついた。
そしてそのときはきた。
「坊っちゃん坊っちゃんおまたせしました! 特製クッキーでございます! 今お茶をお入れ致します!」
「密ちゃん」
俺達は静かに見守っていた。
「はいはい坊っちゃんなんでしょうか?」
「俺、人間に戻りたいんだ」
「人間?」
「その為にはボスを倒さないといけない」
「倒す?」
「ギーラも倒すんだ」
「それはそれは大きい夢ですね」
「俺……密とは戦いたくな……」
その瞬間、血が飛んだ。
颯の血だ。
攻撃を避けたが、左腕をかすったようだ。
密ちゃんの右手には手裏剣があった。
「密……」
颯は泣きそうな顔だ。
「何を話すかと思ったら、そんなくだらない話」
「密! 聞いて! 俺は密とは戦いたく……!」
「防御!」
俺達に向かって、くいなが飛んできた。
稀星の防御で助かった。
「アミナス、あなた方が変な事を教えたんじゃないですか? 誰かが坊っちゃんを操作してるんですか? あなた方を抹殺対象と致します」
密ちゃんは勢いよく飛びついてきた。
右手に持っていた鎖鎌が振りかぶる。
「防御!!」
颯は俺達の前に来て、密ちゃんの攻撃を防いだ。
「密ちゃん、この人達は関係ない。この人達を傷つけるなら俺も許さない」
「私に勝てるとでも?」
「……風神」
颯の頭上には、真紅色のフェニックスが羽ばたいていた。
羽ばたくたびに風がふく。
大きな口を開け、風を飲み込んでいる。
「飛ばせ」
颯の一言で、フェニックスの口から爆発的な強風が放たれた。
「坊っちゃ……!」
密ちゃんの服は飛び散り、遠くに飛ばされいなくなった。
ギーラなら死ぬ事はない……。
速くここから立ち去った方がいい。
「みんな! すぐ密ちゃんは俺達を見つけに来る。早くここから出発するからついてきて!」
颯はそう言うと、急に周りが暗くなった。
「隠……」
耳にと言うより、頭の中に聞こえたその声は、みんなにも聞こえていた。
「何……!?」
結衣の声は震えていた。
「密ちゃんの能力だ! でも何の……」
「近くにはいないよ。密ちゃんの音は聞こえないから」
響はそう言った。
次第に目が慣れてきた。
「洞窟?」
さっきまでいた場所とは違うようだ。
俺達が移動させられたのか?
「颯、何か知ってる?」
「この洞窟、護衛隊の場所に繋がる洞窟だ」
「えっ!」
「実験台として成功したとき、一度だけ連れて来られたんだ」
「ボスに近づいたって訳ね」
「勝てるかな?」
稀星と知星は、やる気満々だ。
「後ろは行き止まり。とりあえず進むしかないな」
「今のところ何も聞こえないから大丈夫だよ」
「響、頼りになるー!」
「結衣、うるさい。声が響き渡ってる!」
「ごめんごめん!」
「俺が案内するよ」
颯はそう言うと、歩き始めた。
俺は、さっきのフェニックスが気になっていた。
歩きながら颯に聞いた。
「そういえば、さっきのフェニックスってなんなんだ?」
「風神って技なんだけど、フェニックスが出るんだ。みんなは何が出るの?」
「「えっ、出るの?」」
俺と結衣は同時に同じ言葉が出た。
「声が聞こえない? それで気づいたら風神が出せるようになってた」
本当に天才なんだな……。
「僕それなんとなく分かるかも」
響はボソッと言った。
「あなたなんで言わないのよ」
稀星はつっこんだ。
「僕、耳がいいから自分にだけ聞こえてるのかなと思って。それか霊的なやつ」
「えっ!? 響聞こえる人!? 見える人!?」
結衣は俺の後ろに隠れて言った。
「さてどっちでしょう?」
響はにこにこして言った。
「いやぁぁぁぁ!!」
「結衣うるさい!」
注意する稀星の声もうるさい。
「だってぇ!!」
「きいもうるさい」
知星も怒っていた。
「結衣っ……苦しい……」
服を後ろにひっぱられ、俺の首がしまっていた。
「わぁぁ!! 麻陽ごめん!」
俺は深呼吸をした。
「ふふふっ」
響は笑っていた。
「大丈夫かな」
颯はボソッと言った。
30分くらい歩いただろうか。
颯が立ち止まった。
「あそこに扉が見えるの分かる? あの向こうにいるよ」
いよいよ始まる。
「一対一にこだわらなくていい、みんで倒すんだ」
みんな無言でうなずいた。
俺は扉を開けた。
次回。
幽華、再び。




