第八話 祭りの後で
そして、今に至る。
彼女の馬鹿騒ぎのお陰で、雷は学校中を歩き回された。
体育館でバスケ部のたこせん。
運動場では野球部とサッカー部がいがみ合いながら、唐揚げとポテトの売り合い。
一方、校舎の中はカルタ大会やら吹奏楽部による演奏などで活気がある。
言葉で表現する事が難しいほど、生徒やら地域の人が楽しんでいた。
そこは明るく笑顔があり、影なんて存在しない光り輝いた場所であった。
故に彼。大神雷がそこに目を向けなかったのは必然である。
ーー
ふと、背中に何かが乗っているように感じた。
それと同時に、今まで機能していなかった五感がだんだんと戻り始め、眠る前の記憶が蘇って来た。
「………ん」
「結局お前は一人で回ったのか?」
まだ起きもしていない私に、後ろから声がかけられる。腕から顔を起こし、ゆっくりと両手を挙げて伸びをする。
すると、バサッと何か毛布のような服のような物が私の後ろに落ちた。
「大神君……?」
「よく寝てたな、お前」
いつから寝ていたのだろうか。
今日の文化祭はここまで、と言う事で一旦教室でホームルームがあったはずなのだが、そこから一向に記憶が出てこない。
ホームルームで寝てたのか、と気づいた時にはさっき後ろに落ちた私のコートを彼が拾ってくれていた。
「ありがと」
「んじゃ、帰ろうぜ。下校時間ぴったしだ」
「えっ?」
未だ寝起きのテンションで、ふわふわしている私に彼は前置きなしに現実を突きつける。
バッと時計を見れば、時間は六時半を回っていた。
一気に回りが広く見えたように感じた。
窓から差し込む夕日が今にも消えかかっている事や、オレンジ色に光る教室に誰もいない事。そして、こんな時間まで私が起きるのをずっと待っていた人がいる事。
「ごめんなさい」
「あー、別に俺が勝手に待っただけだから。お前が謝る必要なんてねぇよ」
「じゃあ、ありがとう?」
「それでいい。ほら、帰ろうぜ」
彼は横に掛けてあった私のカバンを持ち上げて、手渡しで渡してくれた。
私はそれを受け取り、椅子から立ち上がった。
静寂で包まれた教室から足を踏み出し、冷たい廊下へと出て来た。
廊下は教室より一層冷え切っており、冬の寒さが近づいている事を示していた。
「さて、と」
「そう言えば坂口さんは?」
「坂口?あーアイツはお前を俺に預けて帰ったよ。なんだっけ?今日は1日目の後夜祭があるとかなんとか言ってた」
「?後夜祭って全部終わってからやる物じゃないの?」
「だからよくわかんねぇんだよ。まぁ、俺は絶対行かないけどな」
そんな言葉を交わしながら、スタスタと歩き始める。
よくよく隣を歩く彼を見ると、彼の顔はいつも以上に疲れ果てていた。
理由なんて聞く必要も無いし、私自身それに少しだけ加担していたので何も言えない。
が、彼はそんな私を見てか少しソッポを向きながら口を開いた。
「ったく、ホントお前らはお節介なんだよ」
「それは私に言うんじゃなくて、坂口さんに言うべきじゃない?」
「どっちもだ。ま、アレだ。今日は本当に疲れた。どっちが世話を焼いてるのか、わかりゃしねぇ」
今日の彼女の騒ぎ様に大神君は愚痴をこぼす。もう何回も彼の愚痴を聞いている身だが、今日の愚痴はいつもとはまた違った気がした。
どこか爽やかで。愚痴にしては少し嬉しそうな感じだった。
ーー
色々と喋りながら歩いていると、あっという間に駅へと着いてしまった。
「じゃあまぁ、気をつけて帰れよ」
「うん。バイバイ」
「おう」
人を嫌う彼は、今日の様な人と関わる事が多い日を好まない。だから彼は孤高に生きている。
彼は明るい場所から目を背ける。
しかし、それは彼だけではないのではないだろうか。
彼ともう一人。人を嫌い、関わる事を拒絶する人間がいる。
そう。それは天宮燈。私自身である。
次回は火曜日です!




