第七話 彼女は空気が読めない
「は?」
呆れ、と言うより驚きの方が強いだろうか。彼女のある意味告白を聞いての、彼の反応は当然と言えば当然の反応だった。
教室、二人きり、そしてあのもどかしそうな彼女の態度。
王道と言うべき場所で、最高のタイミングだと言える時に彼女は誰も想像のつかない告白をした。
「え、えっ?!何?何!?」
「……いや、いや、何でもねぇよ」
「あ、もしかして!」
彼女はパンッと大きく手を叩き、何かを閃いたジェスチャーをする。
少年は冷や汗を背中に流しながら、二、三歩後ろに下がった。
「もしかして、ライライ彼女持ち?」
「アホかお前は」
この少女はわかって言っているのだろうか。その言葉が彼の頭の中を縦横無尽に駆け回っている。
呆れも、驚きも、しっくりとこないこの会話への怒りも、何もかもが一方へ、『コイツが悪い』と言う逃げの道の方向へぶっ飛んで行った。
「?あれー?おかしいなぁ……」
「おかしいのはテメェの頭だろーが」
「え!?何!?髪型変?!」
「もういいから黙ってろお前!」
彼が強めにツッコミを入れると、彼女は怒ったと認識したのか喋るのをやめた。
しかし、彼女の目はしっかりと彼の方を見ている。
一人の少女が決断し、奮闘して出た結果が今のだ。もう彼女の中で答えは出ている。
この場で出していないのは、彼一人だけだ。
「はぁ……。救うってなんだ?俺をどうやって救うんだ?殴って引っ張り起こすのか?精神病院に連れ込むのか?」
「……されたいの?」
「アホか、違ぇよ」
「うーん。ライライを救うって言っても、私ができる事って君の背中をほんの少し押すだけだと思うよ?」
天然。バカ。気の抜けた奴。
彼女への悪口など、出会った時から大量にある。次から次へと湧き出るその悪口は、会うたびに数を増やしていた。
だが、ごくごく稀に本当に稀に、彼女の態度は急変する。
「なぜそう思う?」
「えー?だって、ライライって私を助けてくれた時と今じゃ全然違うじゃん。声の優しさとかー、態度とか、他の人への対応とか」
それらは大神雷と言う人間が、自分自身を制御して得たものではない。
彼が無意識の内にそう変化していた、と言う事である。
彼女は天然で、バカで、四六時中気が抜けている。けれど、物には短所と長所があるように彼女にも長所がある。
彼女は他人の良いことを見つけるのが上手である。
それが彼女の長所。そして才能だ。
「……どんだけ見てんだよ。引くぞ」
「酷いな!!何となくで気づいたんだからほっといてよ!」
「お前の言う通り過ぎて、逆に怖くなったんだよ。お前、もしかしてストーカー?」
「違いますー!」
べーっと舌を出す彼女に、少年はため息を吐いて返した。
「それにさ、助けてくれたのにまだおかえししてないじゃん」
「善意に借り貸しは無いだろ?あるんなら、俺は利子を要求するね」
「この腹黒者め!」
ブーっと口を膨らまし、少女は不満を露わにする。そんな顔を見て、彼はほんの少しだけ笑顔を零した。
「あ!ライライが笑った……!!」
「んだよ。笑ったらダメなのか?」
「いや〜珍しいのを見れたなぁって」
「ほっとけ」
「うん、なんか良い雰囲気なった事だし!ライライ、私と文化祭回ろ?」
こう言う時のタイミングも彼女は外さない。本当に無駄な所ばっかりスキルが高い気がする。
それだけ心の中で愚痴って、彼はしかたないと続けた。
「わーったよ。せいぜい楽しめ」
「やったね!じゃ、ご飯食べに行こう!お腹すいた!」
やはり彼女は天然で、バカで、気が抜けていて、空気が読めない。
もうすぐ2月ですよ。
あの赤い日がやって来ますよ。
血で血を洗うあのチョコレート戦争が。
なーんて、見出しでチョコを売る所はないかなぁ、なんて思う今日この頃。




