第六話 文化祭の片隅で
「さて、と。ライライー!次どこ行く?」
「なんなのお前?俺を殺したいの?」
「?」
「はぁ……」
野球部の唐揚げを一つ買い、早くも二つほど口の中にほうばっている坂口さんは可愛らしげに首を傾げる。
ライライと呼ばれた少年はそれを海より深いため息で、素通りしてそっぽを向いた。
かれこれあの状態が一時間以上も前から続いている。
ーー
「なんのイジメでお前と回らなきゃならねぇんだよ」
彼の怒声とも言える嘆きが、誰も居なくなった教室に響き渡った。
時計は九時二十分を指し、校舎外や二、三年生のクラスはお祭り騒ぎになっている。
そんな中で、あるクラスの端っこでは軽い言い争いが勃発していた。
「デートだよ?デート!」
「んなビッチみたいな事するなら、俺じゃなく他の男を漁りに行け」
「ビッチじゃないし!男漁りでもないし!」
「じゃあなんだってんだよ、この状況は?!」
「えー?口説かれてる少女?」
「おい、それじゃ口説いてるのが俺になるじゃねぇか」
アホかお前は、と言わんばかりの三白眼と口調で、彼の前の席に座る少女を怒鳴りつける。
彼女は舌を出して許しを乞うだけで、まるで反省の色が見えない。だが、実際側から見れば一概に違うとは言えないのが癪だ。
「ね?早く行こうよ?!」
「嫌だって。食い物で出してるのは全部冷凍食品だし、ゲーム系の店はどれもぼったくり。これでどうやって楽しめばいいんだよ」
「事実を言うなぁ!!仕方ないじゃん!この学校が貧乏なんだから!」
「そうやって仕方ない、で済ますから世の中が腐って行くんだよ。俺を見ろ、仕方ないで済ましてるのは人生だけだ」
「一番済ましたダメなところを堂々と済ましてるだけだよね?!」
めんどくさそうに遠くを見ながら、適当に答える少年に、彼女は奇策にも連続ツッコミで対応する。
しかし彼の尻は一向に椅子から動かない。
「ねー?なんで行かないの?あかりんなら行くの?」
「誰だろうと一緒だっての。面白くないから行かない、これ以上に理由がいるか?」
「……仕方ない」
淋しそうな顔で黒髪の少年の方を見るが、少年は眉の一つも動かさないで空を見つめ続ける。
彼女は少しだけ待つが、黙って立ち上がり椅子を机の中にしまうと教卓へと足を向けた。
「なら、遊びに行くんじゃなくて探検に行こう!学校探検!」
「悲しい事に半年も通い続ければ、学校内の地図ぐらい頭の中で描ける」
「チッ」
「舌打ちすんな舌打ち」
彼女の目は少し本気だ。いつも以上に真剣に考えている。無論、それを一番理解しているのはこの場にいる彼のみ。
ふと、彼は思い出したように彼女の方へ首を動かし、あの時のように非道に卑劣に氷のような声と表情で一つ少女に問うた。
「で?ホントの理由は何?」
「この悪魔……!」
「悪魔呼ばわりは心外だな。少しぐらい嘘のつき方を習え。それじゃあ誰も騙せねぇぞ?」
「騙す必要がない!」
「・・・・・」
彼女の率直な答えに少年は押し黙る。
彼と彼女は違う。生き方も違えば、考え方も違う。だから彼らの人生の中で見てきたモノも違ってくる。
故に出す答えも同じではない。
「そうか。それはいいこった」
「うん。……私がライライを一人で誘う理由なんて、他に何があるって言うの?」
彼女は心苦しそうに質問する。もう全ての答えは出ている。そう言いたげだが、言葉を最後まで濁し隠す。
「天宮燈の手を借りず、私一人で君の前に立ってるんだよ?」
「それは俺の知った事じゃない案件だと思うんだが?」
「君がそう思ってても、私はそうとは思わない。だって、私は━━━━━━━」
時間が一気に減速し、周囲の音が消え、さっきまで気づかなかった心臓の音だけが、世界から取り残されたように、いつも以上に早く強く小刻みに鐘を鳴らした。
しかし、終わりはやって来る。
彼女は大きく息を吸って思いを告げた。
「私は君を救いたい!」
自信満々に、大きな声でそう宣言した彼女に彼の目は点で止まる。
「は?」
彼の口から漏れ出たのはたったそれだけだった。
文化祭なんてそんなもんだ!
リア充達のイチャイチャをなぜ見ないといけないんだよ!!と、タコ焼きを焼きながら思う日です。
青春の馬鹿やろーーーー!!!




