第六話 彼の裏話
「さて、体育祭が終わった、と思っている君達!あと3週間後には文化祭がやってくるよー!」
「これが現実か……ッ!」
「そうとも。それが現実だ」
体育祭が終わり、今までは暖かかった日々が少しずつ冬に近づいて行っている今日この頃。
私達の部室、もとい現実からの避難所に、一発目からとんでもない事をぬかしながら朝倉先生がやって来た。
ここは帰宅部と言う部室でありながら、現実逃避に励む生徒達の溜まり場である。
故にそんな所に『現実』を突き付けに来るのは極悪非道の行いだ。
ほら、大神君に至っては現実をあまりに受け入れたくなくて机に突っ伏して耳まで塞いでる。
「え、先生もしかしてそれだけを言う為に私達呼んだんですか?」
「確信犯かよ!」
「ライライうるさい」
「は、はい……」
大神君が坂口さんに手懐けられている事に、朝倉先生は驚きを隠せていない様子だったが、咳払い一つでその感情を押し殺す。
けれど、こう言う事する人って後々ネチネチ言ってくる人なんだよね。
「あーえっと……今回の文化祭なんだが、君達帰宅部に仕事は回ってきていない。だから精一杯楽しんでくれ」
「と、言われましても……」
大神君はスーッと首を横に向け、私と坂口さんの方を見てから明後日の方向を見てボヤく。
「俺、回る人いないんで休んでいいですか?」
「なぜそうなる……」
「だって、柊木は最近やけに真面目君になっちゃって「文武両道!奉仕活動も!」なんて言ってて二学期のクラス委員だし。コイツらは……ねぇ?」
「ねぇ?、で済ますなよ!?ちゃんと理由を言え、理由を!」
先生の言葉には同感だが、この部活動の部員の中で『友達』がいる人間は二人だけだ。
一人は彼が言ったように柊木君。
柊木君は最近、クラスの男子やら女子達と仲が良くクラスの委員長をするまで人望が厚くなった。
体育祭で一緒になれなかったのは、委員長として何やら仕事があるって言う理由だ。そしてその理由は今回も受け継がれる。
そしてもう一人。
逆説的に考えて、私と大神君に友達がいないのは明白だ。彼にはクラスのほぼ全員から嫌われる、と言う特殊体質があるし、私は『あまり口数が少ない人』と言う認識でうるさい事を好む青春を謳歌する高校生からは、あまりよく思われていない。
なので坂口さんだ。
彼女は入学当初に面倒ごとを抱えていたが、今ではもうクラスの中心に近い存在になっている。そんな彼女に友達がいない筈がない。
よって、『ねぇ?』と言う言葉で済まされたのにも納得せざるを得ない。
「それに、文化祭って何するんすか?模擬店?」
「ホームルームで言っただろ。あ、お前寝てたか」
「俺寝てたの?」
「いや、聞くなし。って、ライライ全授業寝てるから。体育の授業だって寝てたし」
「体育って寝れるの……?」
朝倉先生の不思議ゲージが最大まで溜まってしまった。もう身体中から『なぜ?』って言葉が溢れ出てる。
最後には『スーパーなぜなに人』にでもなるんじゃないのだろうか。
「えーっと確か昨日の授業じゃ、いつの間にか姿が見えないなぁなんて思ってたら、校庭の端っこの木陰で寝てましたね。影薄い上によく休むって言う相乗効果?みたいな感じで忍者でした」
「その内口寄せの術も学びたいな」
「そ、そんなアホな……!?」
「体育館だったら、ボール取りに行くフリして二階に上がってグースカ寝てましたね」
「それはちょっと新品のマットが目についたからであって……」
自慢気に坂口さんが彼の裏話をペラペラと喋り始める。なんだろうか、聞いててすごく呆れてきた。
どんな授業でも寝れるって言う凄い技術なんだろうけど、使う場所を大きく間違っているような気もする。
「お前もうバスケ部入れば?」
「幻のシックスメンにはなりたかないですよ?つか、目立つし」
「まぁ、ライライに他人の手助けは無理でしょうね。だって学校中から嫌われてるし」
「それは本人の前で言っちゃダメだろ!?いや、まぁ傷つかないけどさ?」
最後は小さな声でボソボソと言って聞き取れなかった。まぁどうせ大した事ではないから、後で聞く必要もあるまい。
ひとしきり彼の裏話を聞けた朝倉先生は、半分満足そうで、半分呆れている様子で最後に一言だけ言って帰って行った。
「まぁ、なんだ。ちゃんと文化祭には参加しろよ」
あまりにも頼りない言葉だったが、仕方ないで済ましておく。
あー、3週間後には地獄の日パートツーがやってくるのか。どうにか、人のいない場所で本でも読んで過ごしたい。
そんな事を思いながら、鞄を取り三人で教室から出て帰路についた。
次回は土曜日の夜9時です!お楽しみにー!




