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結局彼は孤高に立つ  作者: ◾️
第二章 二学期
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第五話 尊敬に値する

 彼、大神雷は私の中で尊敬に値する人物である。



「いやぁ〜最高だったな!あの抜かれた時の悔しそうな顔!!あー腹痛ぇ!」



 リレーから帰って来て早々、そんな事を大声で言うものだから周りから一気に睨まれる。

 彼はそんな醜悪極まる目線に、まるでステージに立つミュージシャンのように答えた。



「まぁ、みんな頑張ってたし?賞賛はされるべきだな」



 悪意に満ちた扇動で、他クラスを盛大に煽り散らす。他クラスの生徒から見られる目は一位に咲き誇った時よりも、圧倒的に強くなった。

 何を言おうが彼は勝者。敗者は黙って跪けばいい。そんな動物的な考えで彼はどっかりと椅子に座った。


 彼のやっている事は稚拙な行いではある。誰も思いもしなかった中で大逆転し、堂々たる一位になった。しかし賞賛の言葉も、喝采も彼の耳には届かない。いや、彼だけではない。私にも、坂口さんにも、他の誰にもそんな声は届かない。


 なぜか。


 ただ羨ましいからである。

 さっき彼の言動を稚拙な行いだと、動物的だと言った。

 なら問おう。


 他人の持つ才能に、羨ましがり、欲しいと思うが絶対に手が届かないと悟り、そんな才能を持っていると言う事に嫉妬し、挙げ句の果てには畏怖の念を覚える。


 これは賢い行いなのだろうか。人間的なのだろうか。


 無論、この社会を見れば後者は有無も言わさず正しいと言えるだろう。

 だが、果たしてそれは賢明な行いだと言えるのだろうか。

 もちろん否である。



「・・・・・・」



 そして彼は喋らなくなった。

 全力疾走で頑張ったから疲れたのだろうか。それともただ言葉が尽きただけか。

 いずれにせよ静かな時間にへと戻った。


 が、その沈黙は奥の方から聞こえてくる小さな小さな言葉で消え去った。



「……んだアイツ。いちいちウゼェ。てか、マジ早すぎて気味悪い」


「つか、アイツの走り見た?マジでキモくない?あんなの見せられたら引くわー」


「それな。陸上部のエース予告された奴を軽々抜かすとか人間じゃねぇわ。アレ化け物じゃね?気持ち悪いから喋らないでおこ」



 彼への酷評は次から次へと重なって行き、挙げ句の果てには『性格クソで運動も勉強もできる超絶ウザい奴』って事で落ち着いた。


 そんな気分の悪い話ばかりを聞かされた時間は、私にとっては想像以上に苦痛の時間だった。













 ーー



 そして体育祭は終わる。

 全くの知らん顔で終わり良ければ全て良しとでも言いたそうな長い閉会式が、今さっき校長の話で終了した。



「疲れたぁ……」


「ホントもう嫌」


「それにしても、今日は色々あったよ」


「うん……」



 坂口さんとの会話がここまで歯切れが悪いのも珍しい。

 それだけ彼への周囲の対応が苦痛だった。

 そんな私達の元に、しれっとした顔でやっと終わったぁぁ、と大きなため息を吐いている彼がやって来た。



「もう嫌。絶対体育祭なんてやらん。来年からバックれる!」


「その……なんか言われたの?」


「いいや、なんにも。あんだけ煽ったのに結局陰口だけってつまらねぇ奴らだなホント」


「嫌、じゃないの?ライライは」



 坂口さんが言いにくそうにそう問いかける。

 しかし彼は暗い表情など一切せず、能天気に答えた。



「嫌、嫌か……。慣れたな。うん、慣れた」



 唖然。

 そう言われてしまうとぐうの音も出ない。

 彼が『慣れた』と言う理由で、満足しているのなら別に私達からかけるべき言葉はない。



「そ、そうなんだ……」


「初めて言われたのが幼稚園の頃だから、かれこれ何年?……十一年?そんだけ言われたら流石に慣れるわな」


「ライライは、怒ったりしないの?」


「……そりゃあ俺だって怒るよ?なにせ一応感情とヤツを持ち合わせてるからな。けど、『何やっても一緒』って時に怒るほど俺は馬鹿じゃない」



 彼は少し間を空けて続けた。



「だってさ。あいつらが嫌う理由はもうわかってる。それを怒って暴力で解決したところでなんの足しにもならない。寧ろ余計酷い言われようになるだけだろ?━━━━━━━それなら俺は孤独と言う場所に立ち続ける」


「……強いんだね、ライライは」



 隣で彼女は押し殺した声でそうボソッと呟いた。果たしてその言葉が彼の耳に届いたかどうかはわからない。

 だが、彼はいつもの声の調子でまた続けた。



「苦しいのも、辛いのもわかってる。自分を騙し続けているってことも。けど、そうでもしないと、俺はひ弱な真面目君って所で足踏みするだけだ。前に進みたいから自分を騙す。誰かより前に立ちたいから、隣の奴を後ろに引っ張る。俺のやり方が間違っているかもしれない。けど、俺はこのやり方を続ける」






 私と同じ場所に立ちながらも、別の方法を模索し貫く。

 やはり大神雷は、尊敬する人物だ。






次回は木曜日の夜9時です!

お楽しみにー!

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