第四話 嫌われ者
パーン!パーン!っと銃声、もとい地獄の日パートワンの開始が宣告の音がなった。
乾いた音が校庭に響き渡り、最後にうっすらと消え去った後、吹奏楽部やら何やらによる豪華なファンファーレが会場を盛り上げた。
「……豪華なこった。あー眠い。帰りてぇ」
「ライライのやる気がみるみる無くなっていくね〜」
「それでは初めはあったって事になるじゃない」
彼女は「あ、ホントだ!」とか言いながら頭にコツンと手を当てる。
そんな坂口さんの姿を見て、後ろで死んだ魚をもう一度蘇生さして、もう一回死んだような虚ろな目をしている大神君がブツブツ何かをぼやく。
「このスクールカーストの上位者め。んな行事の何が楽しいってんだ」
「スクールカーストの上位者って……卑屈過ぎでしょ」
「何言ってんだ。少しだけ卑屈が混ざってた方が世の中上手く渡り歩ける」
「少しお酒飲んだ方が上手くできるとか言ってる、頭にネクタイ巻いた居酒屋にいるおっさんみたい」
「細けぇよ!」
頭にネクタイ巻いた辺りで、彼女の偏見が現れている。酔っ払いが頭にネクタイを巻き付けるのは、アニメや漫画、イラストの中だけであって、実際の酔っ払いのネクタイはちゃんと首に回っている。
まだ酒の一つも飲めない一介の高校生が、酒に飲まれたおっさんの話をしていると、グダグダと始まった体育祭の第一種目が始まった。
ーー
あれよあれよと言う間に、時間は経って行き一年生の最期の競技である男子リレーの所までやって来た。
勝ち負けとか関係なく、もうどちらが勝とうが興味のきの字すら心にない大神君の出番だ。
もちろん、見た限りのやる気はゼロを優に越してマイナスうん千って所だろう。
「あ、そう言えばライライって男子リレーだったよね?」
「えぇ。ほら、あそこの一番後ろ」
「うわぁ……やる気どころか魂すら無さげな顔だよ。アレ生きてるの?」
列の一番後ろで、自分の出番を待つ彼姿は、来るか来ないか未だわからない子を予定時間より一時間も長く待っている、そんな感じの一般人の顔だ。
非常に険しく、どこか変な悟りでも開けそうな態度で今もボーッと天を仰いでいる。
「何アレ……こっわ」
「怖いと言うより、異常ね」
「まぁ、例えそんなんでも人外野郎だから誰も文句は言えないんだよねぇ……」
呆れた様子で、大神君の結果だけを見る。
大神雷、と言う人間はどちらかと言えば人間ではない。人間亜種、なんて名付ければ良いだろう。
なにせ、彼は同じ人間としては計り知れない。それだけ常人とはかけ離れているのだ。運動神経、頭脳、体の基本的構造、どこか一つだけ優れている人間ならばごまんといるが、その全てを持っているのは彼だけだ。
それほどに彼と言う人間は異常だ。
感情もあれば痛みもある。が、人間的な部分と言えるのは正にそこだけである。
「ライライってさ。ホント、凄いよ……」
「・・・・・」
彼にバトンが渡る数秒前に、隣で坂口さんがそう零した。
今の順位は最下位。一位までとそこまで差は開いていないが、多分他のクラスの一番足の速い人を代立ててもジリ貧で最下位は確定だろう。
「昔はモテたんじゃないかな。あの足の速さ、頭の回転、顔はホント平均的だけどそれでも悪いわけじゃない。━━━━━━ホント、嫉妬しちゃう」
「うん」
誰もが諦め、一位争いをしている上位陣を応援する。
が、しかし。
後ろから『人あらざる者』が追い上げる。側から見ていればよくわかる。同じ一年生、同じ十六歳の男子なのに、速さが明らかに違う。
例えるなら、幼稚園の運動会で一番弱いチームのアンカーに一人大人が混じっているような光景だ。
そう。絶対にあり得ない。
「けど、彼の心はとても黒い。それもドスが付くほど。自殺しようか悩んでる人に、じゃあ死ねよって言える人なんてこの世で彼ぐらいだよ」
「……彼はあなたが死にたくないって思ってる事を知ってたからでしょ?」
「そうなのかな?私、ライライとそんな話した事ないよ?一度だって死にたくないなんて言ってない。実際はそうだったとしても」
「・・・・・」
グングン彼は三位、二位と順位を上げ、そして最後には一位までも抜かしてフィニッシュした。
会場はもう騒然である。
「凄い」と言う感情よりも「なんだアイツは」と言う嫌悪感が感じられる。
私と坂口さん、朝倉先生は知っている。
「結局さ。ライライってどう頑張っても嫌われる人間なん……だよね。馬鹿な周りのせいで」
そして彼もわかっている。
大神雷と言う人間は、どう足掻こうが喚こうが関係なく、周りの人間から嫌われる人間である。
何故か。
人間と言う生き物が、猿人として生まれた時からの習わしだ。
次回は来週の火曜日です!お楽しみにー!




