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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
余談『いつか誰かの物語』

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新米女神の神様稼業:ウル編


 迷宮達が正式に神様デビューをして間もない頃のことです。

 ようやく自分の神殿を建立したウルも、日々の生活の中で神様らしい威厳を惜しげもなく振りまいておりました。



『真面目に生きるのも大事だけど、やっぱり我としては遊び心を忘れちゃダメだと思うのよ。だからほら、我が普段からゲームしたりマンガ読んだりするのは人間のヒト達が目標にしやすいようお手本を見せてあげてるっていうか?』


「な、なるほど、深い……!」


「感服いたしました! そのお言葉、胸に刻みまする」



 神様として重要な仕事はいくつもありますが、代表的なモノの一つは神殿に勤める神官やあちこちから詣でに来た信者に、ありがたい教えを説くことでしょうか。

 従来の女神を祀る神殿では、聖典に記された文言を神官が伝える形で行われたそれが、このウル神殿においてはなんと神から直々にお言葉を賜ることができるのです。


 信心深い人々にとっては、まさに感涙モノの大盤振る舞い。

 適当にその場その場で思いついたことを言っているだけだとしても、大抵は相手が勝手に良いほうに解釈してくれるので多分そんな大きな問題はないでしょう。



『やれやれ、神様のお仕事も大変なの』


「ウル様、本日もお勤めご苦労さまでした。昼食は如何なさいますか?」


『そうね……じゃあ、今日はお外で食べることにするの!』


「左様にございますか。では、こちら本日のお食事代となります」



 午前のお仕事を終えたウルは、お世話役の神官からお小遣いをもらうと足早に神殿を後にしました。日によっては神殿内でご飯を食べることもあるのですが、先程厨房に忍び込んで盗み見たところによると本日の神官達のメニューは麦粥と野菜の漬物。


 ウルが食べる物はここから更に数品増えて多少豪華なものになるのですが、基本の構成としてはさして変わりません。命令すれば自分だけ豪勢なステーキを食べるようなこともできるのでしょうが、流石のウルにもそこまで露骨なワガママを言うのは申し訳ないという気持ちがありました。まあ、そんなわけで神殿の献立にピンと来るものがなかった日は、こうして外食を選択しているのです。



『じゃあ、行ってくるの! もし何かあったらお部屋でマンガ読んでる我に伝えてね』



 ウルの一人が外出しても、また別のウルが最低一人は常駐しているので神官達にも不安はありません。同じ仕組みで大抵の国や街の神殿には他のウルがいて、毎日現地の人々相手に神様業をやっているのです。



『今日はハンバーガーの気分なの』



 街中を普通に歩いて目当てのお店に到着したウルは、幸いにも並ぶことなくそのまま入店。行列ができている店だと店側や周囲の客が気を利かせて先に入れようとしてくれる時もありますが、ウルはなるべくルール通りに並ぶようにしています。


 神が率先してルールを守ってこそ、人間達も社会の決まりを尊ぶようになる……なんて深い考えがあるわけではないのですが、露骨な贔屓をされるとズルをしているみたいな後ろめたさがあってキチンと味に集中できません。そうした振る舞いを周りが勝手に良いほうに解釈するのは別に自由ということで。



『最近はこっちでもコーラが飲めるようになったから助かるの!』



 地球との交流が大っぴらに始まったことで、これまで存在しなかった品書きを新たに見かけることも多くなってきました。このコーラもその一つ。まだ輸入量がそう多くないためか他のドリンク類よりだいぶ割高ですが、大抵の商品は『ニホン製』というだけで飛ぶように売れるので店側も進んで仕入れているのでしょう。



「ウル神、お食事中に失礼いたします。よろしければ、こちらの色紙にご芳名を賜ることは……」


『んっふっふ。しょうがないの、プライベートで飲んでる時に』



 時には店員や居合わせた客からサインや握手を求められることもありますが、チヤホヤされるのが大好きなウルはなるべく全て応えるようにしています。

 このあたりの対応は他の姉妹神だと多少違ったりもするのですが、親しみやすさや話しかけやすさという点では、間違いなくウルが神々の中でもナンバーワンでしょう。そうしたサービス精神のせいで人が集まり騒がしくしてしまうこともありますが、



「おっ、神様だ! へえ、今日はハンバーガーにポテトに……コーラ?」


「ああ、ニホンの飲み物か。まだ飲んだことないけど美味しそうに飲むなぁ」


「店員さん、こっちにもハンバーガーのセットお願い! もちろん、ドリンクはコーラでね」



 単に神であるというだけでなく、食べ物を心の底から美味しそうに食べるウルの姿はそれだけで強力な宣伝になるのでしょう。彼女が立ち寄った店は大抵しばらく客足が伸びるので、ちょっと騒がしくしたくらいなら大した問題にはなりません。


 もっとも、稀に最初から宣伝目当てで過剰なサービスをしてくるような店に出くわすと、そのあんまり嬉しくなさそうな顔を見た客が逆に寄り付かなくなってしまうリスクもありますが。


 まあウルに食べ物の好き嫌いはほとんどありませんし、要は真っ当に美味しい料理を適正価格で販売すればいいだけの話。あちこちの飲食業関係者にとっても、程よい向上心と臨時収入をもたらしてくれる存在として歓迎されることがほとんどです。



『ふぅ、ご馳走さまでしたの』



 さて、そうして昼食を済ませたウルは次なる目的地へ向けて歩き出しました。


 近所の子供達と合流してかくれんぼやおままごと。

 お小遣い片手にお菓子屋さんやオモチャ屋さんを冷やかしに。

 近隣の農村に出向いて農作物や家畜の育ちを良くするお手伝い。

 日当たりの良い原っぱにゴロンと寝転んでお昼寝をするのも捨てがたい。

 お茶菓子目当てに姉妹の誰かの神殿に遊びに行くのも良いでしょう。



『やれやれ、毎日ハードスケジュールで大変なの』



 無論、ウルの答えは選択肢の総当たり。

 その場で新たな分身を何体も増やして、思いついた全部の目的地へと向かいます。向かった先でまた新たにやりたいことを思いついたら、そこでも同じく気軽にポコポコ増えるのでしょう。

 

 ともあれ、これが神様としてのウルの暮らしぶり。やや自由すぎるきらいはあれど、なんだかんだと上手くやっているのでありました。


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