ファミリーネーム
※以降は『迷宮アカデミア』本編クリア後の番外編となります。
後日譚だったり前日譚だったり本編中のどこかだったり、各エピソードごとに時系列がバラバラになると思いますが、そのあたりに関してはあまり深く気にせずお楽しみくださいませ。
レンリが学都で居候を始めたばかりの頃のお話です。
時期的には、まだ第一迷宮の攻略を始めて間もない頃。
幸運にも移り住んで早々に同年代の少年少女と友人になり、ついでにその友人達を専属の護衛として雇うこともできました。これから先、レンリの下には数々の幸運、奇運、悪運が押し寄せてくることになるわけですが、この出会いについては文句なしの幸運。後々のあれやこれやを考えれば、世界の行く末をも左右することになる運命的な巡り合いだったのではないでしょうか。
「やあ、諸君。冒険者にやらせることでもないと思うけど、力仕事をお願いできる人がいると助かるよ。流石に叔父様に頼むのは気が引けるしね」
この当時のレンリは、これでも一応は彼女なりに遠慮というものがあったのでしょう。護衛の仕事を任せるために雇った冒険者に、迷宮も冒険もまるで関係ない個人的な用事をお願いするのは悪い気がするという感覚が、まだほんの僅かながらに存在していました。
もう少し詳しく説明すると、隣国の実家から次々郵送されてきた研究資料やコレクションの刀剣類など。基本的な生活に要する品は最初に来た時点ではすでに送っていたのですが、実際の住処を確認してからでないと置き場所の関係で何をどれだけ運び込めるのか不安があったのでしょう。実際に居候先の広さや家主の意見を確認してから、実家に手紙を出して追加の荷物を送ってもらったというわけです。
「えへへ……荷物運び、得意……」
「まあ、トレーニングにはなるか」
これが冒険者としての仕事に誇りを持っているベテランなら、関係ない雑用をさせたことに怒って契約を切られても不思議はありませんでしたが、当時のルカやルグは揃ってギルドに登録したばかりの新米です。これからキャリアを積んでも冒険者らしい誇りや自負とは結局ほとんど無縁のままでしたが、まあ、それはそれ。
そもそも二人とも冒険者の仕事の何たるかを全く理解していなかったおかげもあり、特に不満を抱くこともなく言われたままに玄関先に山積みの荷物をレンリの私室にまで運んでいました。彼らのそういう寛大かつ大雑把な対応が、この先どんどんレンリが厚かましくなっていく一因だったのかもしれませんが。
「よいしょ、っと……この箱で……最後、かな?」
「だね。二人がいてくれて助かったよ」
レンリ一人で運ぼうとしたら、何日もかかった上に連日ひどい筋肉痛に悩まされることになったに違いありません。まさに適材適所というやつです。
ということで、この日の仕事はこれにて終了。
労いの意味も込めて、通常の報酬とは別に働いてくれた二人に食事でもご馳走しようかとレンリが口を開きかけたところで……。
「おや、ルー君。そんなに荷物を見て何か気になることでもあったかい?」
「うん? ああ、いや、大したことじゃないんだけどさ。荷物の伝票のところに書いてある変な言葉がどういう意味なのかなって」
「ふぅん、どれどれ?」
別に荷物が汚れていたり壊れていたりということではないようですが、ルグには何やら気にかかるポイントがあったようです。こうして無事に届いている以上は不備などではないのでしょうが、郵送伝票に書かれている見慣れぬ言葉の意味が気になるのだとか。彼が指差した先には、こんな意味不明の文言が記載されていました。
“ソードブレードエッジメイカー”
「えと……ソード、ブレード……エッジ、メイカー……なんだろ?」
「ルカも知らないか。地名とかじゃないよな?」
まあ知らないならば、この反応も無理もありません。最初に自己紹介した時に、長くて覚えにくいからと意図して省いた人物の責任もあるでしょう。
「あれ、そういえばキミ達には言ってなかったっけ? それ、私の家の家名ね。ソードブレードエッジメイカー。ヘンテコな上に無駄に長いから、地元では書くのも言うのも面倒くさくて仕方ないと評判さ」
分かってしまえば謎というほどでもありません。
他人様の苗字を変な言葉呼ばわりしてしまったルグは少し気まずそうでしたが、当のレンリはこの言いようですし、気を悪くしたということもなさそうです。
「そっか……なんだか……」
「すごく刃物が好きそうな名前だな」
「うん、名は体を表すって言うのかな。ご先祖様のネーミングセンスに思うところはあるけど、まあヘンテコなりにそこそこ気に入ってはいるよ」
聖剣造りを宿願とする一族らしくはあるのでしょう。
それに名前がどうあれ、それで友人との付き合い方が変わるはずもなし。さっさとこの話題を終わらせた三人は、食事を摂るべく街へと繰り出したのでありました。




