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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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もうちょっとだけ先の未来⑦

本日二話目の更新です。

順番飛ばしにご注意ください。


 人生のうちで女性が最も美しくなる日。

 まあ実際のところは人それぞれ色々な事情もあって一概には言い切れないのでしょうけれど、結婚式当日を迎えた花嫁をそんな風に評する言葉が必ずしも大袈裟であったり的を外れているかというと、それは否。少なくとも、今日のライムは間違いなく人生最高の美しさに仕上がっておりました。



「やあ、ライムさん。昨日も言ったけど改めて結婚おめでとう」


「ん。ありがと」


「素材が良いのは当然として、すごく素敵なドレスだね。最近流行りの地球(あっち)風のウエディングドレス……とは、ちょっと違う感じ?」


「うん。伝統衣装」



 ライムが身に纏っているドレスは、どうやらエルフの村に伝わる伝統的な花嫁衣裳だったようです。一見すると日本でも見かける西洋風の白いウエディングドレスに似た印象ですが、よくよく見ると淡い色合いの糸で様々な花や葉っぱの形の刺繍がされていました。

 それに加えて、ヴェールの代わりに本物の野花を編んだと思しき花冠を頭に載せているのが印象的でしょうか。普段は(絞め技に応用できるよう)三つ編みにしている長い金髪も下ろして丁寧に櫛で整えられています。



「ふふ、私も流石にウエディングドレスを作るのは初めてでしたけど、幸い婚約から時間はありましたからね。ライムのお母さんに教わりながら一緒にコツコツ進めてたんですよ。作っていたら色々とインスピレーションが湧いてきてしまったので、不自然にならない範疇で伝統のデザインにアレンジを加えたりもしまして」


「おや、アリスさん。へえ、まさかの手作りとはね」



 なんと、ドレスはライムの母とアリスによる共同制作でした。

 そうと言われなければ、プロの仕立て屋が作ったとしか思えない見事な出来栄え。前々から裁縫を趣味にしていたアリスですが、とうとうウエディングドレスを手作りする境地にまで至っていたようです。



「ライムさん、着心地はどうだい?」


「ん……戦いにくそう?」


「うんうん、大切なドレスが汚れたり破れたりしたら大変だからね。もし今日これからバトル展開になったとしても、先に着替えてからの対処をオススメするよ」


「そうする」



 流石に戦闘服としての耐久性まではありませんが、わざわざ花嫁自ら対処せずとも普段から戦闘力を有り余らせている連中が二桁に達しそうな数いるのです。そこは特に気にする必要はないでしょう。それに何より……。



「すごく嬉しい」



 実の母と、まるで姉のように慕う師匠から贈られた花嫁衣裳。

 どれほどの金銀財宝を積み上げて最高の職人を手配しようと、これに勝るドレスなど絶対にあり得ません。ライムにとっては最高のプレゼントです。



「そういえば、『まるで』が付かないほうのお姉さんと、あとご両親と弟さんはどこにいるんだい? この部屋には姿が見当たらないようだけど」


「ん。それなら」



 ちなみに花嫁の家族の居場所については、ライムが口を開くより前に答えのほうがやってきました。



「ほら、父さん。いい加減に観念したまえ」


「そうよ、貴方。いい歳して駄々を捏ねるんじゃありません」


「……む。だが」



 どうやら、ライムの父が娘が嫁に行くという辛い現実から逃げ出そうとするのを、揃って捕まえに行っていた様子。エルフ基準ではあまりにも若すぎる結婚ですし、この土壇場になって覚悟が揺らぐのも無理のないことかもしれません。


 が、そうして抵抗していたのも束の間のこと。



「お父さん」


「ライム」


「ありがと」


「む……幸せに……ぐ、ふぐっ、ぐ」



 花嫁衣裳を纏ったライムを一目見ると、とうとう観念したようです。まだ式が始まる前だというのに男泣きに泣いていますが、そのくらいは見て見ぬフリをしてあげるのが情けというものでしょう。




 ◆◆◆




「あ、そうそう。結婚式の仕切りをする予定だった神官の人が急な体調不良で倒れちゃったんだけどさ」


『そこは、わたくしが責任持って代役を務めさせていただきますので! どうか主役のご両人におかれましては何もご心配なく!』


「そ、そう? 分かった」


 父と娘の心温まる一幕にさり気なく紛れ込ませるようにして、レンリと女神が自分達の犯行を隠蔽するのに成功した頃のこと。ようやく新郎側の準備も整った旨を神殿の見習い神官が伝えてきました。



「違和感ってほどのことじゃないけどさ、こういうのって普通は新婦側のほうが化粧やら何やらで長くかかるものじゃない? ウル君達は何か知らない?」


『あ、それならさっきシモンさんの控え室にコスモスさんが突撃していくのがチラっと見えたから、多分そのせいだと思うの』


「なるほどね。散々にボケ倒されて本番前にシモン君の胃に穴が開いてないといいけど」



 本番を迎える前からシモンが多大なる精神的消耗を強いられていることが予想されましたが、コスモスにも友人達の晴れの舞台を台無しにしない程度の自制心はあるはずです。式が終わった後については一切安心できませんが、支度が済んだということは今のところはまだ新郎の胃は無事なのでしょう。


 コンコン、と。


 新婦控え室の扉をノックする音が聞こえました。

 どうやらシモンが訪ねてきたようです。たまたまドアのすぐ近くに立っていたタイムが目配せを送ると、ライムは小さく首肯。扉が開かれると、そこには普段の騎士団業務では滅多に着ない礼服を纏ったシモンの姿がありました。わざわざこの日のために新調したと思しき白鞘に納まった流星剣(ステラ)を腰の剣帯に差しています。


 彼は入室すると真っ先にドレス姿のライムに視線をやり、



「……綺麗だ」



 と、思わず一言。

 本来は新婦側の両親への挨拶を優先すべきなのでしょうが、ついつい口から零れ出てしまったものは仕方がないでしょう。褒められたライムは少しばかり恥ずかしかったのか俯きながら頬を赤く染めていますが、それでも決して嫌なはずがありません。



「シモンも格好いい」


「ははは、それは光栄だな」



 視線を交わす新郎新婦の脳裏に浮かぶのは、幼い頃に出会ってから共にすごしてきた日々のこと。大変な事件も数え切れぬほどにありましたが、今となってはそのどれもが良い思い出。かけがえのない宝物ばかりです。そして、その宝物はこれからもどんどん増えていくのでしょう。



「おっと、そろそろ式の開始時間じゃない? キミ達も二人きりの世界に浸るのは後でゆっくりやりたまえ」



 レンリが意図して空気を壊さねば、このまま二人で何時間でも飽きずに見つめ合っていたかもしれません。二人とも家族や友人達の前で堂々イチャついていたのを思い出して、今更ながらに恥ずかしくなってきたようですが、まあ今日この日ばかりはそれくらい許されて然るべきでしょう。


 そして、更に待つこと数分。

 いよいよ結婚式本番の時間となりました。



次回で完結です。

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