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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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もうちょっとだけ先の未来②


 この五年間で多くの変化がありました。

 もっとも、同じくらい変わらないものもありますが。



『ほらほら、お姉さん。早くしないとバスの時間過ぎちゃうのよ!』


「遅れたのはウル君がギリギリまでアニメ観てたせいだろう? 今どきは後からいくらでも観る手段があるんだし、テレビにべったり貼り付いてなくてもいいだろうに」


『チッチッ、まったくこれだから素人はダメなの。最速でリアタイしてこそのプロなのよ』


「それはいったい何のプロなのさ」



 レンリとウルは出会った頃から変わらずに、毎日仲良くケンカする関係を保っています。

 ウルも単にボディーガードやお留守番をするだけでなく、何故だか日本のゲーム業界で新進気鋭のクリエイターとして意外な活躍をしていたりもするのですが、まあ今はその件は関係ありません(※拙作『幼い女神の迷宮遊戯』参照)。


 危うく発車時間に遅れるところでしたが、どうにか界港行きのバスに滑り込みセーフ。ほとんど毎週のように学都と行き来しているにも関わらず、大学での講義と違ってなかなかスマートにはいかないようです。



「おや、なんだか視線を感じるね?」


『ふっ、きっと可愛い我に注目してる人が多いのね。我ながら罪な美貌なの』


「へー、すごいすごい」


『あっ、全然信じてないの! 我ってば本当にこっちでも人気なんだから!』



 このバスの中に限らず、ウルが日本の街中で視線を集めるのは毎度のこと。

 彼女自身が積極的に布教活動をしているわけではないのですが、別に素性を隠しているわけでもありません。最近は彼女達の地元に旅行に行く日本人も多いですし、本物の神様がそこらをうろついているのが視界に入れば、思わず注目してしまうのも無理のないことでしょう。頼まれたら芸能人気取りで色紙にサインなどもしています。


 またウルだけでなく、レンリの知名度もなかなかのもの。

 日本の大学で教鞭を執る異世界人学者としても知られていますし、東京近郊で大食いチャレンジメニューをやっている飲食店をほぼほぼ制覇している凄腕フードファイターとしても有名です。たまに動画投稿サイトで飲食系の企画をやっている投稿者やテレビ局に頼まれて、食事の様子を撮られたりもしています。本人の意識としては、あくまで普通に飲み食いしているだけなのですが。


 まあ、そんな一人と一柱が揃っていれば注目を浴びるのも無理からぬこと。

 バスを降りて界港に到着してからは、一層その傾向が強まりました。



「ここいらだと私達の世界からの旅行者も多いからね。ああ、そこの諸君。ウル君を拝むのは結構だけど通行の邪魔にならないよう気を付けたまえ。あと、別に優しくはない私に生暖かい視線を送るのはやめたまえ!」


『お姉さんもいい加減慣れたらいいのに』



 世界との境界近くともなれば、『慈愛の呪い』の影響下にあるレンリ達の同郷人も少なからず見受けられます。呪いの影響は五年が経っても依然継続中。レンリの恥ずかしがりも変わりません。



「くっそ、ラメンティア君に会えたら呪いを解かせるつもりなのに、あれっきり全然会えないし……」


『ラメちゃんなら我や妹の皆の神殿にはよく遊びに来てるのよ? しょっちゅう我の漫画読みながら、ゴロゴロ寝転がってお菓子食べてるの』



 呪いの元凶たるラメンティアは、意外にも大きなトラブルを起こすことなく、あちこち遊び回っているようです。世界各地にあるウル達姉妹の神殿に顔を出したり、学都でもルカ達の屋敷に夕飯をたかりに来たりといった話はレンリもちょくちょく聞いています。レンリ自身は、何故だか五年前に別れたっきり一度も会えていませんが。



「そういえば、こないだマンションの郵便受けにハワイのビーチで水着でピースサインしてる写真入りの絵葉書が入ってたっけ。ご丁寧に剣の私までアロハ柄の鞘に納まってたやつ。あの絵葉書、切手が貼ってなかったから多分マンションまで直に届けに来てたっぽいんだけど」



 時には、地元のみならず地球や他の異世界にまで足を運んでいる形跡も。

 銃刀法に類する法律が存在する国々で運命剣を堂々持ち歩いていたら問題になりそうなものですが、あの恐るべきラスボスがそんな些細なことを気にするはずもありません。相手をさせられるお巡りさんの無事を祈るばかりです。


 ただ、たまに気に喰わないギャングなり魔物だのを叩きのめしたのが偶然にも人助けになったりして、ラメンティア自身としては不本意ながらも人々から感謝されたりなどもしているようで。そうした影響か、女神や姉妹神とは別カウントで独自に彼女を崇める人々が増えつつあるあたりに、微妙に不穏そうな気配を感じなくもないですが。



「ま、ラメンティア君についてはまた日を改めて考えるとして」



 ここまで捕まらないということは、彼女にも何かしらの考えがあるのでしょう。

 具体的には、レンリが自力で呪いを解くまでは会わずにおちょくり続ける等々。

 焦ったところで、今日明日すぐにどうにかなるとも思えません。


 レンリも呪いの件については一旦忘れ、界港内の売店に売っている『白い恋人』や『東京ばな奈』へと意識を移しました。飛行機が行き交う日本各地の空港と同じく、界港にもこうした各地の名物土産が色々置いてあるのです。恐らくは、旅先でお土産を買い忘れた異世界人旅行者の需要狙いと思われます。



「メインの結婚祝いは先に郵送してあるけど、ここから更にお土産が増えて悪いってこともないだろうからね……もぐもぐもぐ」


『こらこら、お姉さん。買ったそばから即食べ始めるんじゃない……もぐもぐ……の。お菓子の空箱だけ渡されたって向こうも困る……もぐもぐ……のよ』


「ははは、流石にゴミを押し付けるような真似はしないさ。まあ、手元のコレはちょうどゴミ箱があったから捨てるとして。うん、まあ考えてみればメインの結婚祝いがあるのに追加であれこれ増えすぎても、かえって迷惑かもしれないしね?」


『うん、最初からお菓子なんてなかったの』



 界港では特にこれといったイベントもなく、そのまま素通り。そういうことになりました。まあ気心の知れた友人達なら、何も言われずともほぼほぼ正確に彼女達が来るまでの道程を想像できそうではありますが。




 ◆◆◆




 異世界間の移動そのものは実に単純。さして時間もかかりません。

 所要時間としては両替やパスポート審査のほうが長いくらいです。


 日本の空港や都内の大きな鉄道駅にもある、エスカレーターの横移動版みたいな動く歩道に乗って立ち止まったまま二百メートルかそこら動くだけ。その途中で異世界間のゲートを通り抜けて、歩道から降りた先はもう異世界です。


 ここから学都の街中までは馬車で数分。

 徒歩でもさしたる時間はかかりません。

 


「どうしようか、馬車でも拾う?」


『でも、普通に順番待ちしたら結構かかっちゃうのよ? 神様権限で横入りっていうのも気が進まないの。我の神殿の神官さん達に馬車を回してもらうのも、普通に並ぶのと同じくらいかかりそうだし』


「じゃ、天気も良いし歩こうか」



 幸い、本日の学都周辺は快晴。

 目的の結婚式は明日ですが、この空模様を見る限りでは向こう数日は晴れ続きでしょう。まあ悪天候なら、誰かしらが拳なり剣なりで雨雲を散らすことになるだけですが。



「まずは軽く叔父様の家に顔を出して、それから秘密基地に移ろっか。この時間なら誰かしらいるだろうし。今夜はご馳走を用意して皆で前祝いかな?」


『それなら我も姉妹の皆に声をかけておくの』



 ウルはそもそも別の自分が学都の神殿に常駐していますし、レンリも普段からちょくちょく帰っているので、慣れ親しんだ土地を懐かしむような気持ちは全然ないのですが、まあ、それはそれとして。


 こうして彼女達は学都の地へと戻ってきたのでありました。



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